このタイトルだけで私が何を書こうとしているのかわかる人は、なかなかの映画通です。と、偉そうなことを言ってもしょうがないので、ちゃんと説明しますと、ジョディー・フォスター(Jodie Foster 1962~)は、『羊たちの沈黙 The Silence of the Lambs 1991でFBI訓練生のクラリスを演じ2度目のアカデミー主演女優賞を獲得しました。ところが、ジョディーは続編の『ハンニバル Hannibal 2001には出演せず、クラリス役はジュリアン・ムーア(Julian Moore 1960~)が演じました。

 ジョディー・フォスターは、なぜ『ハンニバル』に出演しなかったのか、今回はその謎に迫ります(ご存じの方はごめんなさい)。

 

 まず、二つの映画を簡単に説明します。

 

<『羊たちの沈黙 The Silence of the Lambs 1991』> ※ネタバレ注意

 FBI訓練生のクラリス・スターリングジョディー・フォスター Jodie Foster 1962~)は、バッファロー・ビルと呼ばれる未解決の殺人事件の犯人像を解明するため精神科医のハンニバル・レクター博士アンソニー・ホプキンス Anthony Hopkins 1932~)と面会するようFBIの幹部から指示される。レクター博士は、過去に猟奇的な殺人事件を起こし、精神病院に収監されていた。

 はじめレクター博士はクラリスの協力依頼を拒否するが、彼女が自分自身の過去を話すことを条件に、捜査への協力を約束する。クラリスは、父親の死後、預けられた親戚の家で羊たちが「と殺」されたことが精神的なトラウマになっている、と博士に打ち明ける。二人の奇妙な交流が始まった。

 上院議員を母親に持つ若い女性が、新たにバファロー・ビルに誘拐されるという事件が起きる。レクター博士は捜査に協力することを条件に、待遇のいい刑務所に移してもらうことになる。刑務所への移送の日、博士は警備担当者らを殺害し、脱獄を果たす。

 一方、クラリスはレクター博士のアドバイスをもとに捜査を続け、バッファロー・ビルを追い詰めていく。犯人の自宅に一人で乗り込んだクラリスは、地下に監禁されている上院議員の娘を発見し、バッファロー・ビルを射殺して事件を解決する。

 それからしばらく後、クラリスにレクター博士から電話がかかってくる。博士は、次の殺人を予告して電話を切り、雑踏の中に消えていった。

 

ジョナサン・デミ監督(Jonathan Demme 1944-2017)

1991年のアメリカ映画

アカデミー作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚色賞

 

 

<『ハンニバル Hannibal 2001』> ※ネタバレ注意

 レクター博士の失踪から10年。クラリスジュリアン・ムーア Julian Moore 1960~)はFBI捜査官として再び博士の行方を追うことになった。そんな折、イタリアのレナルド・パッツィ刑事ジャンカルロ・ジャンニーニ Giancarlo Giannini 1942-)が、捜査で知り合った人物がレクター博士ではないかと疑いを持つ。刑事はあるサイトにアクセスし、有力な情報に巨額の懸賞金が出されることを知る。

 懸賞金は、かつてレクター博士に麻薬をかがされ、幻覚の中で自分の顔を切り刻んだアメリカの大富豪、メイスン・ヴァージャーゲイリー・オールドマン Gary Oldman 1958-)から出されることになっていた。パッツィ刑事はメイスンの代理人に問い合わせ、指紋が確認されれば金の一部が支払われることを知る。

 刑事は、知り合いのスリを使ってレクター博士の指紋採取に成功する。しかし、自分をメイスンに売ろうとしていることを知ったレクター博士は、パッツィ刑事を殺害し、アメリカに戻ってくる。

 メイスンは、レクター博士がクラリスに好意を寄せていることに目をつけ、手下に彼女を監視させて近くにいた博士をとらえ、屋敷に連れくる。一方、クラリスは、博士の拉致にメイスンが関わっていると考え、彼の屋敷に向かう。

 レクター博士は殺害される寸前にクラリスに救われる。そして、メイスンの手下に撃たれて意識を失ったクラリスを抱きかかえて屋敷を脱出する。

 レクター博士は、事前に調べておいた司法省のポール・クレンドラーレイ・リオッタ Ray Liotta 1954-)の別荘までクラリスを連れてくる。ポールは、なにかにつけてクラリスをおとしめめ、メイスンとも通じていた。別荘に来たポールを博士は薬で眠らせ、晩餐の準備をする。クラリスの意識が戻り、ダイニングに行くと、そこにはポールが座っていた。博士は、ポールの脳をむき出しにして、その一部を調理しポール自身に食べさせた。

 クラリスは隙を見て、レクター博士に手錠をかけて逃走できないようにする。しかし、博士は、自分の手首を切断して逃げ、機上の人となった。

 

リドリー・スコット監督(Ridley Scott 1937-)

2001年のアメリカ・イギリス・イタリア合作映画

 

 

<ジョディー・フォスター Jodie Foster 1962~

 彼女のことは『タクシー・ドライバー Taxi Driver 1976のブログでも書いたので、ここでは私が好きな彼女の作品を紹介します。

 数々の映画に出演し、『告発の行方 The Accused 1988と『羊たちの沈黙』で2度、アカデミー主演女優賞の栄誉に輝いたジョディー。中でも私が一番好きな作品は、『君がいた夏 Stealing Home 1988です。年上の女性との触れ合いを通して青年が成長する物語で、ヒロインのケイティ役をジョディーがみずみずしく演じています。

 この「年上の女性との触れ合いを通して青年が成長する」という作品に、私は昔から妙にひかれ、海辺の街でのひと夏を描いた『おもいでの夏 The Summer of `42 1971もとても心に残っています。

 主人公のドロシーを演じたのはジェニファー・オニール(Jennifer O`Neill 1948~)で、高校生の時、自宅のテレビではじめてこの映画を観て、彼女の美しさに思わず息を飲みました。

 

                                                      ジェニファー・オニール                                                                                                                                                                                (Wikipediaより)

 

 『君がいた夏』、『おもいでの夏』。 この先、何度でも見たい映画です。

 

<ジュリアン・ムーア Julian Moore 1960~

 実は私は彼女の出演した映画は『ハンニバル』しか観ていないので、ほとんど何も語ることができません。知り合いの30代のアメリカ人女性と『ハンニバル』について話した時、ジュリアンについて「きれいな女性で、あの赤毛が素敵」と熱く語っていたことだけ紹介しておきます。    確かにジョディーに比べると、大人っぽい女性ではありますね。

 『アリスのままで Still Alice 2014で、アカデミー主演女優賞を受賞しています。

 

<ジョディ・フォスター 出演拒否の理由>

 さて、いよいよこれからが本題です。なぜジョディ・フォスターは『ハンニバル』に出演しなかったのか?手っ取り早いのはジョディ本人に聞いてみることですが、残念ながらそれは難しいので、とりあえずネットで調べてみました。その結果、撮影のスケジュールがほかの作品と重なってしまったからという理由もありましたが、原作の内容を彼女が嫌がったから、という説明が目立ちました。

 どんな内容だったのでしょうか?さっそくトマス・ハリスの小説を読んでみました。

 原作では、映画には登場しないメイスンの妹が重要な役割を果たすなど、映画とはかなり異なる部分がありますが、決定的に違うのは、レクター博士がクラリスと一緒にメイスンの屋敷を脱出した後の展開です。

 「あらすじ」にも書きましたが、映画ではレクター博士がクラリスをFBIのポール・クレンドラーの別荘に運び、ポールを殺害して、逃走します。一方、原作ではレクター博士は自分の家にクラリスを連れてきて催眠薬を注射した上で催眠術をかけ、調理したポールの脳を彼女に食べさせます。それだけではなく、二人は男女の関係になり、3年後にアルゼンチンで一緒に暮らしている様子を描いて終わります。

                                   

 

 これでは、ジョディーが『ハンニバル』への出演依頼を断ったのも、無理はないと思えてきます。

 ただ、お伝えしていますように、映画では原作の後半部分が大きく変えられています。詳しい理由はわかりませんが、ジュリアン・ムーアが映画のような脚本にすることを条件にオファーに応じたという説があります。個人的には、そうに違いないと考えています。

 

 と、かなり推測を交えた部分もありますが、ジョディーが2度目のクラリス役を引き受けなかったのは、以上のような理由からだったようです。でも、ここで思うのは、もし撮影に使われた脚本を最初からジョディーに示していたら、彼女は出演しただろうか、ということです。

 もちろん、ジュリアン演じるクラリスも、しっとりとした大人の美しさがあって気に入っています。でも、、『羊たちの沈黙』から10年経ったクラリスをジョディーが演じていたら、我々はどんなクラリスに会うことができたのかな、と考えると、実際に使った脚本を初めから彼女に見せておけばよかったのにと、ジョディーのファンとしては思わずにはいられません。

 

<それにしても、なぜレクター博士役>

 たとえばアーノルド・シュワルツェネッガー(Arnold Schwarzenegger 1947-)と言えばターミネイター(The Terminator)シルベスター・スタローン(Sylvester Stallone 1946-)と言えばロッキー(Rocky)ランボー(Rambo)といった具合に、俳優の名前を聞いただけで連想する役があります。アンソニー・ホプキンスですぐ頭に浮かぶのは、やはりハンニバル・レクターではないでしょうか。 

 レクター博士役を演じたアンソニー・ホプキンスはイギリス出身の名優で、ナイトの称号も受けています。その彼が、エンパイアというイギリスの映画雑誌の悪役ランキングでNo5に選ばれたレクター博士(ちなみにNo1はダース・ベイダー)を、なぜ演じたのか?それも3回も(『羊たちの沈黙』『ハンニバル』『レッド・ドラゴン Red Dragon 2002』)。ジョディがクラリス役を拒否したのとは違った意味で、これもまた大いなる謎です。

 アンソニーの代表作の一つに、ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ原作の『日の名残り The Remains of the Day 1993という映画があります。『羊たちの沈黙』と『ハンニバル』との間に制作された作品で、アンソニーはイギリス貴族の屋敷で働く執事の役を演じました。

 アンソニー演じる執事。私は、どうしてもレクター博士を思い出してしまい、いささかこわかったのですが、、映画をご覧になった皆さんはいかがでしたでしょうか?

 

                                           (『日の名残り』より)

                                       

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。