女子高生コンクリート詰め殺人事件 [新聞記事] | ブログ

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▼平成元年3月31日朝日新聞朝刊

女子校生をコンクリート詰め 少年ら数人で殺す 東京・綾瀬

婦女暴行の疑いで警視庁綾瀬署に逮捕されていた無職少年ら数人が女子高校生を乱暴して殺し、ドラム缶にコンクリート詰めにして東京都江東区内の埋め立て地に捨てていたと自供し、同署と警視庁少年2課は30日、供述通りの場所で発見したドラム缶の中から遺体を確認したため、足立区内の無職少年2人(17歳と18歳)を殺人と死体遺棄の疑いで逮捕した。
犯行現場には別の少年5人もいたとみられ、同容疑で取り調べる方針。
被害者は埼玉県三郷市に住む同県立高校3年生A子さん(当時17歳)とみられ、少年らに連れ去られた後、1ヶ月余り室内に監禁されていたらしい。
A子さんは昨年11月に家族から家出人捜索願が出ていた。

調べでは今年1月3日、A子さんが逮捕された少年2人と足立区綾瀬の仲間の家に監禁されていた時、布団に水をこぼした。
少年らが怒り、A子さんの手足にライターの火を押しつけたり、顔や腹などを殴るけるなどの暴行を4日未明まで続け殺した。

少年らはA子さんを放置したまま遊びに出たが、5日未明に部屋に戻り、A子さんが死んでいるのに気づいた。
死体の処理に困った少年らは家の近くの工事現場から盗んできたドラム缶に死体を入れたうえ、コンクリートを流し込んで、江東区若洲の埋め立て地に捨てた疑い。

少年らは都内の別々の私立高を中退。
非行仲間と一緒に足立区内を根城にする暴力団の青年部組織「極青会」を作って、組の指示で飲食店に花を売りつけるなど組員まがいの行為をしていたという。
グループはわかっているだけで10人おり、車で女性を誘っては強引にホテルに連れ込むなど繰り返していたらしい。
2人は、昨年12月に起きた婦女暴行事件の容疑者として今年1月23日に逮捕されていたが、さらに別の婦女暴行1件と20件のひったくりも自供し、再逮捕されていた。

少年鑑別所での余罪取り調べ中の今月29日になって2人が殺人を自供、同署は同日夕に埋め立て地でドラム缶を見つけ、30日午後コンクリートを砕いて死体を確認した。

遺体は腐敗が進んでおり、家族も身元が確認できない状態。
このため、遺体の指紋をA子さんの所持品の指紋と照合するなどして確認を急いでいる。

A子さんは、去年11月25日夕方、少年らに三郷市内でだまして連れ去られ、足立区綾瀬の少年の仲間の家に監禁された。
いつも見張りがおり、逃げ出そうとするとリンチされていたという。
連れ去る際にだました手口は、少年らの1人がバイクですれ違いざまA子さんの自転車を倒し、もう1人が親切そうに助けるふりをして信用させ、バイクの後部に乗せるやり方だった。

また、A子さんの親を安心させるために12月中に数回、三郷市の自宅に電話をかけさせ「心配しないで」「どうして捜索願を出したの」などといわせていた。

A子さんは埼玉県八潮市内の県立高校に通っていたが、昨年11月下旬、両親が「八潮市内のアルバイト先に行ったまま帰宅しない」と吉川署に届け出ていた。


▼平成元年3月31日朝日新聞夕刊

少年、計7人が関与 埼玉の女子高生殺し

東京都足立区内の無職少年(18歳)らの非行グループが女子高校生を乱暴して殺し、ドラム缶にコンクリート詰めにして埋め立て地に捨てた事件で、警視庁少年2課と綾瀬署は31日、遺体の指紋の照合から殺されたのは埼玉県三郷市高州1丁目の県立八潮南高校3年生、F子さん(当時17歳)と断定した。
また、犯行現場となった足立区綾瀬の会社員宅を現場検証するとともに、殺人・死体遺棄容疑で逮捕した少年2人のほかに現場の家に住む兄弟ら3人が殺害に関与、ほかに2人の少年が監禁と連れ去りにかかわっているとみて、この5人も近く取り調べる。

同課などの調べによると、F子さんの遺体は夏用掛け布団2枚でくるまれ、さらに大型バッグに入れてからコンクリート詰めにされていた。
衣服は少年らが監禁中に与えたものらしく、失跡当時とは違っていたため、家族が見てもF子さんの衣服と確認できなかったという。

F子さんがコンクリート詰めにされたドラム缶は、発見された時の重さが305キロあった。
2、3人では持ち運ぶことができないため、同署では多人数でワゴン車かトラックなどの車を使って遺棄したものとみている。

殺害現場となった少年らの仲間の家は、足立区綾瀬の静かな住宅街の中にある小ぢんまりした2階建て。
昭和48年ごろに両親と男の子2人の一家で入居したという。

近所の人の話では、昨年末ごろまで夜中にバイクの音がしたり、2階で騒ぐ声が聞こえたりした。
玄関わきの電柱をよじのぼって2階の部屋に出入りする少年を見かけた人もいる。
近くの主婦は「ベランダに脚立が置いてあったこともある。
玄関を通らずに出入りしていて、両親も気づかなかったのではないか」と話していた。


▼平成元年4月1日朝日新聞朝刊

「悩みを話してスッキリした」 女高生殺しの少年ら 東京

東京都足立区内の無職少年(18歳)らのグループが女子高校生を乱暴して殺し、ドラム缶にコンクリート詰めにして埋め立て地に捨てた事件で、警視庁少年2課と綾瀬署は31日、殺された埼玉県三郷市高州1丁目、県立八潮南高3年生、F子さん(当時17歳)を解剖した結果、死因は殴られたりけられたりしたことによる「外傷性ショック死」とわかった。
1日、殺人・死体遺棄容疑で逮捕した少年2人を送検するとともに、犯行現場にいた別の少年3人を取り調べ、容疑が固まり次第逮捕する方針。

少年ら2人は調べに対し「今まで後悔して眠れない日もあった。今まで悩んでいたことを話してスッキリした」と反省した様子をみせている、という。


▼平成元年4月1日朝日新聞夕刊

一度だけ注意、監禁少年宅の父 女子高生殺しまた1人逮捕

埼玉県の女子高校生が少年らに長期監禁の末に殺され、コンクリート詰めで捨てられた事件で、警視庁少年2課と綾瀬署は1日、殺人と死体遺棄容疑で逮捕した主犯の東京都足立区の無職少年(18歳)ら2人を東京地検に送検した。
また、盗みなどの疑いで少年院に収容されている同区の無職少年(17歳)ら3人も犯行に加わっていたとみて、逮捕状を用意して取り調べ、うち1人を逮捕した。

同課は、被害者の三郷市高州1丁目、県立八潮南高校3年生F子さんの監禁・殺害現場の足立区綾瀬の少年宅を31日深夜まで検証して証拠品数十点を押収し、1日朝からは少年の両親が監禁や暴行に気付いていなかったかどうか事情を聴いた。
これまでの調べに対し、少年らは「監禁して間もない昨年12月初め、1階の父親から『うるさいぞ』と注意されたことがあるだけ」と供述しているという。
少年らは家族の留守中を狙ったり電柱を伝って2階の仲間の部屋へ出入りし、家族と顔を合わせないようにしていたと、同課はみている。


▼平成元年4月2日朝日新聞朝刊

父親、監禁の少女と会っていた 少年たちの女高生殺人

埼玉県三郷市高州1丁目、県立八潮南高3年生F子さん(当時17歳)が、足立区綾瀬の少年宅に長期監禁のうえに殺されてコンクリート詰めで捨てられた事件で、少年の父親が監禁されているF子さんと顔を合わせていたことが、警視庁少年2課と綾瀬署の1日までの調べでわかった。
同課などは、その時の状況に不自然な点もあるため、1日に新たに逮捕した少年を含めて逮捕ずみの少年3人の供述とつき合わせ、父親が監禁に気付いていたのに見過ごしたか、全くわからなかったのかどうかを、詳しく調べる。

同課などが少年の父親から事情を聴いたところ、父親は12月初め、弟の部屋で「奇声」が聞こえたので注意しようと2階に上がった。
「うるさいぞ」と言って部屋に入ろうとしたが、中に入れてもらえなかった。
その時、女性の声がしたため「女の子が遊びに来ている」と思ったという。

また12月末のある日、F子さんとみられる女性が1人で1階の食堂に下りてきたため食事を食べさせた。
その時に「家に帰りなさい」と注意した、という。
父親はふだんから子どもたちの部屋に入れてもらえなかったらしい。


▼平成元年4月3日朝日新聞夕刊

「帰宅説得で食事に呼んだ」 女高生殺人、監禁少年の父

埼玉県三郷市高州1丁目、県立八潮南高3年生F子さん(当時17歳)が、東京都足立区綾瀬の無職の少年宅で殺されコンクリート詰めで捨てられた事件で、少年の父親がF子さんに食事をさせていたのは、少年(17歳)の部屋に女性が泊まっているのを知った少年の両親が、女性に家に帰るよう説得するため夕食に呼んだことが、警視庁少年2課と綾瀬署のその後の調べでわかった。
夕食には少年も同席したがF子さんはほとんど話をしなかったらしい。

また、少年らの新たな供述では、F子さんを殴ったりけったりする乱暴は数十回に及び、少年らも正確な回数を覚えていないほどひんぱんだったらしい。
部屋からは血痕も多数見つかっており、少年らは「ムシャクシャした時も、やつ当たりで殴った」と言っているという。
同課は、少年らは自分たちの暴行を知られるのを恐れてF子さんを家に帰すこともできず、次第に「じゃま者」扱いにして乱暴を重ねていたとみている。


▼平成元年4月4日朝日新聞夕刊

女高生殺人に数々の疑問 監禁された経緯は?

卒業を控えた女子高校生が40日間の監禁の末に殺された事件は捜査が進むにつれ、数々の疑問点が浮かんでいる。
被害者の埼玉県立八潮南高校3年生F子さん(当時17歳)が、どうして何の抵抗もせず少年宅までついて行ったのか。
また、どの時点で何をきっかけに暴行が始まったか。
警視庁少年2課と綾瀬署は、逮捕した3人の少年以外に犯行にかかわったとみられる4人の少年の取り調べを急ぎ、殺害に至るまでの状況を詳しく再現する方針だ。

連れ去られたのは昨年11月25日の午後8時ごろ。
F子さんは放課後、八潮市の包装資材会社でアルバイトを続けており、この日アルバイト先の友人と別れて自転車で家に帰る途中姿を消した。

自転車は姿を消して間もなく、八潮市と三郷市の境界である中川の潮止(しおどめ)橋近くの商店前で見つかっている。
きちんとスタンドを立て、カギもかかっていた。
この状況から県警は、F子さんは再び自転車を置いた場所へ戻ってくる意思があった、とみている。

F子さんは家族に黙って外泊することも、ままあったが、昨年9月に都内の大手スーパーの就職試験に受かり張り切っていた時期で、自分から進んで少年たちの家に泊まったとは考えにくいという。

少年らの供述によると、主犯格の少年(18歳)と監禁されていた家に住む少年(17歳)の2人が、通りかかったF子さんを見つけ「ナンパしよう」と相談。
一方がわざとからんだうえ、一方が助ける芝居をしたという。

少年2課は、F子さんが「正義漢」を信用したというより「あの男の仲間がお礼参りに来るかもしれない」と脅され、おびえて言うなりになったのではないか、とも見ている。

少年らは当初「部屋に入った日はちやほやして乱暴しなかった」と供述し、F子さんがその日は安心して泊まったことをうかがわせた。
が、逮捕者が増えるに従い「部屋に入るなり、殴るけるの乱暴が始まった」という新しい供述も出ている。

また監禁した少年の両親は少なくとも12月下旬に1度、F子さんと少年をまじえて食事をした際「帰りなさい」と諭したというが、これが事実なら、なぜその時に助けを求めなかったのか。

3日までに送検された3人の少年は、いずれも高校を自主退学している。

警視庁の調べでは、少年らの中学の卒業生に暴力団員になった先輩がおり、その先輩とつき合い始めてから素行が悪くなった。
だが、ひったくりや婦女暴行の非行歴はあっても、今回のようにむごたらしい事件をうかがわせる手口はなかった、という。

少年たちの奥深い心理もまだ解明されていない。


▼平成元年4月5日朝日新聞夕刊

少年4人目を逮捕 女高生殺し 埼玉

埼玉県立八潮南高3年生F子さん(当時17歳)が、東京都足立区の無職少年グループに殺されコンクリート詰めで捨てられた事件で、警視庁少年2課と綾瀬署は5日午後、殺害現場となった同区綾瀬の少年宅にいて犯行に加わったとして、新たに同区内の、無職少年(17歳)を殺人、死体遺棄の疑いで逮捕した。
この事件での逮捕者は4人目。

無職少年は、昨年12月に起きた婦女暴行事件で少年院に収容中。


▼平成元年4月21日朝日新聞朝刊

F子さんに火も 女子高生コンクリ詰め殺人事件、3少年を家裁送致

東京都足立区の少年グループが女子高生を監禁、殺害のうえコンクリート詰めにした事件で、東京地検は20日、最初に逮捕された3人(18~16歳)の身柄を殺人、わいせつ目的誘拐、略取、監禁、婦女暴行、死体遺棄の各罪で、東京家裁に送った。
20日余にわたる調べの結果、犯行は極めて悪質とみて「刑事処分が相当」との意見書を添えた。拘置されているあと1人(17歳)についても近く身柄を家裁に送る方針。
家裁で鑑別されるが、年齢や犯行の悪質さからみて、地検に逆送され、成人の刑事事件と同様に起訴されるとみられている。

これまでの調べでは、埼玉県立八潮南高3年生F子さん(当時17歳)に殴るけるの暴行を加えておとなしくさせ、40日間監禁の末、今年1月4日午前7時ごろ、ふとんを汚したとしてFさんに殴るける、さらにライターの火を手足の甲に押しつけるなどして暴行し殺した。

少年らの先輩に、足立区を根城にしている暴力団員がおり、その組の青年部組織を気どって「極青会」を名乗っていた。暴力団の花売りをしたり、街でひったくりを繰り返し、F子さんの監禁中にも十数件のひったくりを重ねていた。監禁中に別の婦女暴行事件を起こしたことも自供している。


▼平成元年4月5日朝日新聞夕刊

波紋広がる女高生殺人 少年法改正の論議が活発に

東京都足立区で無職少年グループが女子高生を監禁、殺害した事件をきっかけに、少年法の見直し論議が活発化している。朝日新聞社にも「少年法の対象年齢を引き下げるべきだ」などの投書が相次いでいる。少年法の改正論議は、法制審議会が中間答申をまとめた昭和52年6月以降、鳴りをひそめていた。法務省は「今回の事件で改正作業が加速することはない」というが、改正に反対の立場をとる日本弁護士連合会は「感情論が先走りすぎている」とみて、今回の事件と改正論についての見解を独自にまとめることにしている。

現行の少年法では、16歳以上の少年が刑事事件を起こした場合、家裁が検察庁に送り返す「逆送」措置により成人と同じように刑事責任が問われることになっている。成人と異なるのは、18歳未満は刑が緩和され死刑相当が無期刑に無期相当が10年以上15年以下となる仕組みだ。また仮出獄の規定では無期刑の場合、成人が10年経過して許されるが、20歳未満では7年経過後から許されることになっている。

さらに少年法61条は罪を犯した少年について、氏名や容ぼうなど「本人であることが推知できるような記事又は写真」の掲載を禁じている。

今回の事件をきっかけに、少年法改正をめぐる投書が20通近く朝日新聞社に寄せられたが、その多くは「鬼畜にも劣る犯行であり、保護する必要はない」などと、少年4人の名前の公表や、保護すべき年齢の引き下げを求めている。事件を捜査した警視庁にも「少年の名前を発表せよ」「極刑に処せ」などの投書や電話が相次いだ。

ほとんどの報道機関は、少年を仮名で報道したが「週刊文春」だけは逮捕された4人と親の実名を掲載した。花田紀凱編集長は「掲載すべきかどうか、悩んだが、少年法改正をめぐる論議を広げるための問題提起として、あえて踏み切った」と語る。
この実名記事に対し、約20件あった反響のうち9割が「支持」の声だったという。
同誌の氏名掲載に対して、法務省人権擁護局調査課は「関心はあるが、現段階ではコメントを避けたい」との態度だ。

●少年法 改正派「対象年齢下げよ」×日弁連「感情論が先走り」
 法務省が少年法改正に動き出したのは昭和41年。当時の構想の中心は、対象年齢を引き下げることにあり、18、19歳を「青年」として、すべての事件を成人と同じ刑事手続きで行うよう提案した。また、現在のように少年事件の全部を家裁に送るのではなく、検察官が送致について判断できるよう改めることもねらった。
 45年に法制審議会に諮問し、動きは本格化したが、日弁連と精神医学会などから(1)個人個人で成長の異なる少年を一律に18歳で区切る意味がない(2)検察官の権限が強くなる(3)保護・教育優先から刑罰優先主義へと法の理念が変わり、世界の動きに逆行している、などの反対論がわき起こった。
 7年越しの審議の結果、52年に中間答申が出たが、反対論を考慮して当初の構想が弱められ、18、19歳は「特別扱いにする」というにとどまった。
 法務省の馬場俊行・青少年課長は「答申は、様々な意見の最大公約数的な形でまとまった。現在は関係機関のコンセンサスを得ながら、速やかに改善すべく、作業を進めている段階だ」と語る。
 改正論を唱える小田晋・筑波大教授(精神衛生学)は「少年らの成熟度が早まっている。少年犯罪を未然に防ぐためにも扱いを変えるべきで、重大事件では厳しく処罰すべきだ。今回の事件は、親も含めてすべて実名で報道すべきだ」という。
 一方、日弁連の少年法「改正」対策本部は、月に一度のペースで定例会議を開いているが、今月11日の全体会議で、今回の事件をきっかけに法改正論が出始めていることが大きな議題となった。「少年法改正の様々な問題点を棚上げにしたまま、極刑を求める声ばかり強くなっているのは危険な兆候だ」として、来月16日の全体会議で討議し、見解をまとめることにした。個々の事件に対して日弁連が見解を出すのは異例だ。
 対策本部長の阿部三郎弁護士は「今の制度で、少年らは十分に刑事責任を問われる。少年法は、少年の犯罪には教育や家庭などの社会的背景があるとして、矯正と保護を目的として生まれた経緯がある。安易に『法が甘い』『だから凶悪犯罪が起こる』とすべてを法のせいにして、感情論がひとり歩きしていくことが心配だ」と話している。


▼昭和63年6月24日朝日新聞朝刊

「少年少女はなぜ」熱い論議 女子高生殺人事件でシンポジウム

東京都足立区で3月、少年グループによる女子高生コンクリート詰め殺人事件が起きたが、その背景などを考えようというシンポジウム「何が彼らをそうさせたか」(主催、朝日新聞東京厚生文化事業団)が、東京・霞が関の全社協ホールで開かれた。パネリストと約200人の参加者の間で、体罰、登校拒否など学校現場の問題から性暴力まで幅広い論議が交わされた。しかし、この事件で浮上した少年法改定問題については、慎重論が目立った。

パネリストは、筑波大教授(精神衛生学)の小田晋さん、作家の落合恵子さん、教育評論家の能重真作さん、フリーライターの保坂展人さんの4人。司会は「朝日ジャーナル」の村上義雄編集委員。参加者の中には、高校生、大学生ら若者の姿も少なくなかった。

パネリストの発言で、触れられることが多かったのは、少年、少女の人権問題。とりわけ、教育現場での体罰や登校拒否については、活発な論議があった。保坂さんは、体罰を受けた子どもたちの声を聞いて歩いた経験から、学校で体罰が日常化していると指摘「むしろ、学校に普通に通っている子が、本当に大丈夫なのかと思う」と問題提起した。また、会場の出版社勤務の男性からは「学校が悪いというなら、その比重を軽くすればいい」と、教育イコール学校という考え方を問い直す声もあった。

学校に見切りをつけようという、こうした意見に対して、疑問を示したのが能重さん。「いま、学校をなくすと、子どもたちは行き場を失う。学校の中で、子どもの生活をどう取り戻すかを考え、これと並行して、学校の外での受け皿づくりをしていってはどうか」と語った。

また、女性からは、事件を性差別の側面からとらえる意見が出された。ある市民グループの女性は「環境が悪ければ、何をしてもよいのか。今日のテーマの『そうさせたか』という言葉にも疑問がある」。これを受けて、落合さんは「宇野首相の問題にしても、女性のモノ化が助長されるのは、とても怖い。『受け入れるのが女』とされて、犯されても殺されても仕方がない、というふうになっていきかねない」と話した。性産業やアダルトビデオのはんらんと今回の事件とは無関係ではない、との見方だ。

この事件で、一部マスコミが少年の実名を報道したことなどをきっかけに、少年法改定問題が持ち上がっているが、これについても多くの意見が出された。小田さんは「弁護人や検察官が関与する裁判が増えることは望ましい」と述べ、改定に賛成する考えを示した。一方、落合さんは改定に刑罰強化の動きが伴っていることに注目「こうした犯罪がなぜ起こるか、徹底的に解明すべきだと思う。しかし、加害者を極刑にすれば解決するとは思えない」と語った。

会場からも「改定によって未成年者にも社会的責任をもたせようというのなら、18歳で選挙権を与える話が出てこないのはおかしい」(男子高校生)、「改定については、大人の中だけで話されている。このことを見ても、改定はイヤ」(男子大学生)などの声が相次いだ。事件が投げかけた問いは大きいが、会場での意見に関する限り、事件をただちに少年法改定の材料にすることには、懸念を抱く人が多かったようだ。


▼昭和63年8月1日朝日新聞朝刊

マージャン負けた腹いせに、死のリンチ 女高生殺害事件で検察が主張

東京都足立区の少年グループが女子高校生を監禁して殺害、コンクリート詰めにして捨てた事件で、わいせつ目的誘拐、略取、監禁、婦女暴行、殺人などの罪に問われた少年4人(19~16歳)に対する初公判が31日午後、東京地裁刑事4部(松本光雄裁判長)で開かれた。検察側は、殺害に至るリンチの動機について、リーダー格の少年が賭けマージャンで10万円くらい負け、そのうっぷんばらしとして行われたものだった、と明らかにした。

罪状認否で少年側は、リーダー格の1人が未必の故意による殺人を認め、他の3人は初めから殺すつもりはなく、傷害致死に過ぎないと主張した。

続いて冒頭陳述で検察側は、少年たちが、監禁して1ヶ月半ほどたった昨年12月下旬ごろから、女子高生の取り扱いに困り「コンクリート詰めにして海に捨てよう」などと話し合っていた、と指摘。1人が「ドラム缶の中に、女子高生の好きなビデオや花束くらい入れてやるか」といったのに対し、別の2人が「そんなことしたらドラム缶が見つかったとき、だれかを決める手がかりになる」と「注意」した、と述べた。

女子高生が死亡するに至ったリンチが行われたのは、今年1月4日。JR綾瀬駅近くのマージャン屋で3日夜から4日朝までに賭けマージャンで10万円負けたリーダー格の少年が、別の少年の家で「負けたのは女子高生のせいだ。これからいじめに行くか」と言ったのをきっかけに始まった。女子高生はすでに全身傷だらけになっていたが、少年たちは自分たちの手が汚れるのを嫌ってビニール袋で手を包んだうえで殴ったり回しげりを加えたりした、という。

少年たちは、女子高生に対する犯行のほか、2女性についての婦女暴行や後輩へのリンチ、総額約220万円にのぼる店舗荒らしやひったくりでも起訴されている。

この日、少年たちの罪状認否は、いずれも弁護人が代弁した。閉廷と同時に、ひとりが気を失って倒れた。