納涼 | 38graffities

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否々、徒書帖に候へば、色気無之候也。

トキワシノブ(1)
トキワシノブ *La photographie est une image.



団扇(2)凉しさは、夏の暑さを受け入れた處に生まるゝ。

軒の下に風鈴を吊るし、門前や庭先へ打ち水を為る。

井戸に西瓜を冷やし、行水を為む(せむ)と盥(たらい)に水を張る。

あいや、鉢に蓮や金魚を浮かべるも好し。

云はば之(これ)、納涼の醍醐味である。

丁度、此の週末は隅田川で花火が打ち上げらるれば、浴衣を羽織りては深川の芸妓と連れ立つも誼しからう。

いつそ、団扇片手に川風に吹かれにでも出掛け候哉。


扨(さて)、江戸へと出て来た許り(ばかり)の頃の話である。

私鐵京王線沿線の某駅前に『西洋栃ノ木』といふ喫茶店が在り、当時、其の店にウエイトレスとして奉公為てゐた髪長と“ひよん”な事から馴染みと成つた。

別嬪ではあるが少々擦れた、所謂(いはゆる)絵に描いた様な江戸の女ではあつたが、何処そ己の気を引いたのであらう。

果たして若気の何とやら、深い仲と成るも疎遠と成るも早かつたと記憶為る。

最早廿余年もの月日が流るゝも、キンキンに冷えた麥酒のグラス片手に眺むる軒下のシノブに、ふと昔日をば思ひ出づり候。


流石、昼間にかつ喰らふ酒は酔ひが廻るが早く、手足を大の字に投げ出し飼ひ猫と畳の上に寝転がれば、井草の匂ひが何とも心地好い。

今猶(なほ)、嘗て(かつて)と同じ場處には『西洋栃ノ木』といふ喫茶店が在り、其れ成りに繁盛為てゐるとの事であつた。



歌