明けぬ夜の心地ながら、九月にも
なりぬ。野山のけしき、まして
袖の時雨をもよほしがちに、
ともすればあらそひ落つる木の葉
の音も、水の響きも、涙の滝も
ひとつもののようにくれまどひて
こうては、いかでか限りあらむ
御命もしばしめぐらひたまはむ
とさぶらふ人々は心細く、いみじく
慰めきこえつつ思ひまどふ。
(源氏物語 椎本の巻より)
父(八の宮)をなくした姉妹は
悲しみの暗い夜に沈んだまま
九月になりました。
野山の景色も、まるで涙を流している
ように時雨が降っています。
そんなに急ぐことはないだろうに
争うように落ちている木の葉も
川のせせらぎも、滝のように
流れる私たちの涙も、みんな一緒に
なって悲しみにくれています。
こんな調子では、限りのある命も
いつまで持ちこたえられるだろうか
と、お手伝いさんたちは心配して
心から慰めの言葉をかけています。
赤の部分、紫式部ならではの
美しい文章です。