829日 初めてのデート。


南青山のオープンテラス。


毎日の会話で心理的距離は近づいているはずのあなたを前にして、わたしは初めて恋する少女のように胸がいっぱいで折角の食事もなかなか喉を通らない始末。

恋煩いに罹っているわたしは既に体重も2キロほど落ちている。

あなたと言えばニコニコと優しい笑顔で楽しそうに、ふたりの共通の想い出であるゴルフの話をしている。


「あの時のゴルフ楽しかったよね。また一緒に行きたいなぁ。」


直ぐには「うん」と言えないわたし。


「楽しくなかった?」


「あのゴルフは嬉しさ、恥ずかしさ、哀しさ、色々な想いが詰まった旅だったなぁ。」


あの時のことをこの20年何度想い出したことだろう。


「色々な思いって?」


「嬉しかったのは圭さんが、コースを回る間ずーっと傍にいて優しく励ましてくれたこと。どんなに心強かったことか。あの優しさがあったから何とか諦めずに最後まで回れたんだよ。」


その優しさは愛情と勘違いしてしまうほどのもので、わたしだけに向けられた特別なものだと思った。


「恥ずかしさは、やっぱりスコアが200を超えたこと。みんながわたしのことを迷惑に思って、コースデビューなんてまだ早いんだよって感じてるんじゃないかなと自己嫌悪に陥ったしね。哀しさは…ヤキモチみたいなものかな。」


「ヤキモチ?」


あなたは不思議顔。


「恥ずかしくて言えない。でもそれもこれも含めていい想い出。」


言葉を濁すわたしに、


「俺は楽しさだけだったなぁ。笑ちゃんの恥ずかしさや哀しさに気づけなかったのが青かったね。」


その哀しさは、ゴルフの打ち上げの時。


帰りの車は別々だったから、早くあなたに逢いたくて、傍に来て優しくして欲しかった。


優しくしてくれるものだと思っていた。


でも、実際は一緒にコースを回った(帰りの車もあなたと同じだった)女の子と楽しそうに会話をして盛り上がり、わたしに構うどころか話しかけてもくれない。


まるでわたしは存在していないかのように。


自分があなたにとって特別な存在なんだと思い込んで舞い上がっていた自分の勘違いに死ぬほど哀しく惨めになり、言葉に出来ないほどの孤独を感じ、その場から今すぐ消えてなくなりたいと思ったことなんて言える訳などなかった。


それを今、あなたの前で言葉にしたらあの時の哀しさが蘇って涙が出そうになる。


でも、本当はそれ以上にあの時の彼女のことを楽しい思い出として蘇らせたくなかった。


例え記憶の中だけでも、大切な想い出の中に他の誰かが入り込むのは耐えられなかった。


あなたは決して独り占め出来ないひと。

誰にも優しくて、その優しさで愛を測ることは出来ない。


この上ない幸せの後の切なさを胸にわたしはあの時、あなたへの想いに終止符を打ち、あなたとの恋を諦めたことを南青山のオープンテラスでひとり想い出していた。