いよいよ迎えた再会当日、八月九日。
あなたに気負いを悟られたくはないけれど、もう二度と訪れることのないチャンスなのだから最大限魅力的なわたしでいたかった。
様々な想いを抱え、再会の場所、あなたと仲間達行きつけの焼肉店へ。
目の前に立って優しい笑顔で笑うあなたを見て、
「あぁそうだった。こんなふうに無理なく自然にすーっと相手の心に入り込んでしまうのがあなただったなぁ。」
と懐かしく思う。あの頃の面影はもちろん残ってはいるけれど、月日はあなたから上手に肩の力を抜かせ自然に歳を重ねさせていた。
ときめきと言うよりは懐かしさと妙な納得を感じ、現実のあなたは確実にわたしの心からは遠く離れた場所にいる人になったと寂しくも安堵しながら実感した。
実際、向かいの席に着いてみるとそれはそれでやはり緊張して昔抱いた感情を思い出し、多少舞い上がってしまったのも事実ではあるけれど、その後の何かを期待したりはしなかった。
今回の再会は名目上、懐かしさからと言うことになっている。すでに何年も続いているわたし以外の仲間たちとの関係を前に明らか未練のある態度をとったり、その後の何かを予感させるように連絡先を尋ねたりしたら場の雰囲気を壊しかねないと思った。
それに、連絡先を聞いてその先何を望むのか?と言う自問自答もあったから。
再会の席で本当は甲斐甲斐しくお肉を取り分けたりもしたかったけれどそれはやめておいた。気の利かない女だなぁと思われるのは嫌だったけれど他にも女性がいる中でいきなり現れたわたしがでしゃばるのはちょっと違う気がした。
既に出来上がっているみんなの空気に上手く溶け込めるようにテンションを合わせてみたりもした。
元来、人見知りのわたしは周りのみんなに気を使いすぎて正直、あなたとの再会を楽しむまでには至ってはいなかった。
そうこうするうちに、もちろん、何の進展もないまま別れの時間がやって来た。
寂しい気持ちはあったけれど、まぁこんなものかなーと言う気持ちの方が強かった。
家に帰り、わたしの心に浮かんだのは、あなたが今日の再会でわたしのことを綺麗だったなぁとか、もし、20年前に付き合っていたらどうなっていたのかなあ?なんて感じてくれて、そのことをこれから先の暮らしの中のふとした瞬間、思い出してくれたらあなたの心に僅かでもわたしと言う存在を残すことが出来るのになぁと言うことだった。
期待していなかったと言えば嘘になる。
翌日、再会の手助けをしてくれた親友を介して、
「折角、再会できたのに落ち着いて話も出来なかったから食事でもいかが?」
と誘いを受けた時、わたしは心の中でガッツポーズをした。20年前の後悔が報われた気がした。
ふたりのやりとりは直ぐに始まり、次回逢う約束が決まった。
20年前成就しなかったふたりの恋がここから始まる。
蜜月の始まり。
8月10日
あなたからの初めてのメール。
「笑ちゃんのメルアドゲット。20年ぶりの再会嬉しかったよ。ゆっくり話もしたいので食事でもいかが?」
呼び名は、笑ちゃん、20年前と同じ。
即座に返信するわたし
「わたしも嬉しかったです。折角なので、是非。」
「正直、再会するまでは朧げな印象しかなかったけど、会ったら直ぐに全部思い出したよ。20年前も物凄く可愛かったけど、今も変わらないね。あと、キャピキャピしながらも実は凄く周りに気を遣ってるところとか昔のまんまだね。」
わたしは、見た目から華やかで明るい人と判断されることが多い。
勿論、それもわたしではあるけれど、内面には不器用で人見知り、拘りの強さやネガティブさを秘めている。そう言う部分での生きづらさは感じるけれど、それこそがわたしで、そう言った部分が愛おしかったりもする。
ただそれらの部分は普段かくされているので本当のわたしを理解してくれる人は少ない。
昨日の再会、短い時間の中、わたしの行動や発する言葉から見た目からは伺い知れない本来の姿を見抜いてくれた。あなたはきっと不器用なわたしをきちんと理解して受け止めてくれる。ありのままのわたしを好きになってくれる。そう感じたこの瞬間、わたしはあなたに2度目の恋をする。
とにかく、あなたに逢いたいと思った。わたしをもっと知って欲しいと思った。
あなたと再び逢うことで、何かを失うことも、誰かを傷つけることも、大人になってしまったわたしにはきちんと分かっていたのだと思う。けれど、動き出したあなたへの想いを抑えることは出来なかった。
約束の日は3週間後に決まり、朝に晩にの会話が当たり前のようになって行った。
おはように始まり、おやすみで終わる毎日の会話。まずあなたから連絡が来てそれにわたしが応える。わたしはこのスタイルを変えたくはなかった。
駆け引きをしているつもりはなかったけれど、あなたに求められているわたしが心地よかったし、どこかに線を引いておかないと、自分を見失うほどのめり込んでしまう予感がしたから。
翌日からもひっきりなしにあなたから連絡が来る。
「おはよう。昨日の夜も話したのに朝からごめんね。ちょっと登場し過ぎかな?」
「笑ちゃんは今日は何をして過ごすの?」
「笑ちゃんの好きな食べ物って何?」
「お酒は強い?」
など質問攻めだ。
夏休みを取って泊まりがけでゴルフに出掛けた先からも写真付きのメッセージが送られて来る。
出掛けた先でもわたしを想ってくれているあなた。
毎朝、毎晩続くあなたとの会話。
「もうすぐ逢えるね。」
「早く逢いたい。」
「いよいよ明日逢えるね。」
「このままの気持ちでいたら、逢えた瞬間、抱きしめちゃうかも。」
繰り返される会話の中であなたもいつしか会いたいの文字が逢いたいに変わって行く。その変化こそがあなたの愛だ。わたしの拘りを言葉にしなくても汲み取ってくれる。
あなたのくれる言葉の数々がわたしを愛で包んで行く。