指揮者のクレメンス・クラウスさんも実はお名前と評価の高さをサイトなどで触れていた程度でCDは聞いたことがありませんでした。 

ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートを始められた方であり、N響でお馴染みのスウィトナーさんの恩師であるという認識だけしかありませんでした。

この度、ヤフーオークションで盤起こしの雄、オーパス蔵のCDが安く出品されていましたから興味津々たる思いで落札しました。


メンデルスゾーンの《真夏の夜の夢》とシューベルトの《未完成》というカップリングが光る1枚。

《未完成》から聞いていますが、さらっとした中にも弦楽器群のレガートの美しさ、木管楽器を柔らかく語らせる技量、……。嗚呼、世評の通り素晴らしい指揮者だったと改めて思いました。

指揮者という不思議な職業の妙を再度考えさせられました。細かい指示以上に、見えないなにかまでをも掌握しているかのようで、クレメンス・クラウスさんの持つパワー、に魅了されました。

抽象的ないい方で申し訳ありませんがエレガントな雰囲気を醸し出すようで、今ではこのような音色をオーケストラから引き出す指揮者はいないと思われます。

《真夏の夜の夢》については解説に面白いことがありました。
VOXレーベルというアメリカのレコード会社の社長のお名前がジョージ・H・メンデルスゾーン氏だったそうで、「メンデルスゾーンという人から電話があって嬉しくて喜んで仕事を引き受けた」とありました。

そのジョージ・H・メンデルスゾーン氏はあの大作曲家フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディの遠縁の子孫にあたるそうです。

クレメンス・クラウスさんも偶然の一致に大変興を感じてレコーディングをされたと想像します。



クラウスさんについては詳しくありませんが、当世指揮者といえば、フルトヴェングラー、クナッパーツブッシュ、シューリヒト、ワルター、トスカニーニ、クレンペラー、父クライバー、ミトロプーロス、戦前のメンゲルベルク等々錚々たるマエストロの中で極めて録音が少なく残念に思われます。

本当のウィーンっ子で音楽のエッセンスを自然に身につけていらしたことは自明の理ですから、フルトヴェングラー同等に録音がありせば、と思われてなりません。

録音嫌いだったか知りませんがあまりにも少なくて……。

しかし、両シュトラウスの録音、片やワルツやポルカ、オペレッタなど。片や生前親しい仲でしたからオペラや管弦楽作品があります。これらは聞いたことがありませんが、音楽の財産と断言してよいと思います。

R・シュトラウスの最後の歌劇《カプリッチョ》はクラウスさんに献呈されていて《平和の日》、《ダナエの愛》、《アラベッラ》はクラウスさんが初演されています。

 

クラウスさんは1954年5月16日にメキシコで演奏会直後、心臓発作で61歳の若さでお亡くなりになりました。ウィーンではその死に際して半旗を掲揚したそうです。

これからステレオが誕生、録音技術が安定し、レコードが最盛期を迎える前にお亡くなりになられ今さらながら惜しいと思わずにはおれません。


この年は更に楽界の宝たるフルトヴェングラーまで亡くなってウィーン・フィルは随分途方にくれたことが想像されます。

フルトヴェングラーもまだ肺炎に罹り68歳で……。指揮者としてはこれからの円熟が増す時分に一変に大黒柱2本も失ってしまったので、当時のウィーン・フィルを察しても余りあるようです。








個人にとってはまた素晴らしい指揮者との出逢いがあって嬉しく思います。心の財産になります。