属国日本

大部分の日本人は、当然のごとく日本国が「独立国家」だと信じて疑いもしません。「いえいえ、日本は世界で唯一の正真正銘の対米従属国家なんですよ。」と言っても「そんな、ばかな。」と一笑に付されるでしょう。

 

しかし、真に受けない人でもその気になってほんの少でも調べてみれば、日本が本当に対米従属国家であることを知って驚くはずです。日本は軍事、政治、法律、経済などの国家としての根幹を米国に支配された紛れもない属国なのです。

 

確かに日本は、国際法上は1951年のサンフランシスコ講和条約調印によってGHQの軍政を脱し、独立を果たしたと言われています。しかし、それはあくまでも形式的なもので、講和条約と同時に締結した「日米安保条約」と翌1952年の「日米行政協定」(1960年に「日米地位協定」に改名)によって、引き続き米国の支配の下に置かれることになったのです。

 

日本がどのように米国に従属しているのか、具体的に見ていきましょう。

軍事的・政治的隷属

数年前のオスプレイ墜落事故でまたしても露呈した米軍の治外法権、米軍が支配する広大な横田・岩国・「嘉手納」空域、沖縄をはじめ全国に展開する200を超える米軍基地・関連施設、東京などの市街地上空を超低空で我が物顔に訓練飛行する米軍機、米軍基地に周りを囲まれた首都東京等は、目に見える従属のほんの一端です。

 

特権を問う・米軍ヘリ首都異常飛行(9) 識者が語る 日本が“弱腰”な理由
 

例えば治外法権ですが、米軍ヘリが私有地の畑に不土着した場合、米軍が到着して規制線が張られたとたん、その内側は事実上米国領土となり、日本の警察や事故調査官はもちろん、畑の持ち主である地主さえ立ち入ることができなくなります。また、日米合同委員会が定期的に開催される港区麻布のニュー山王ホテルは、事実上治外法権を有した建物です。

 

所謂先進国で外国の駐留軍にこのような「自由」が許されている国は、他にあるでしょうか。

 

戦後75年経っても実質的に日本は米国の占領下にあり、米軍は日米地位協定の取り決めによって、現在でもその気になれば日本のどこにでも自由に軍事基地を作ることが出来るのです。外務省は日本側の同意が必要と言っていますが、協議するポーズをとるだけで日本に拒否する権限はありません。

 

予算面でも日本は多額の出費を強いられており、今年度の「思いやり予算」は、昨年と同額の約2000億円が計上されています。日本の負担額は世界でも異常に突出しており、米軍の駐留を認めている独伊など21ヶ国の負担金合計額を超える金額です。

 

条約上は日本側に負担する義務はなく、明日から打ち切っても何の問題もないものです。それなのに、日本側がわざわざ米国に忖度して多額の税金を貢物として宗主国に献上している訳で、さすがは「世界一の対米従属国家」日本だけのことはあります。

 

また、米国にとって日本は事実上国境がない国であり、米軍関係者ということにすれば、米軍横田基地を使って東京へも出入国手続きなしに自由に出入りすることができます。そこから星条旗新聞等が入っている米軍赤坂プレスセンター・ヘリポートまでは一っ飛びです。これは横田基地だけではなく、日本中の米軍基地のどこでも起きていることです。

 

トランプ前大統領が来日の際、羽田空港を使わず横田基地に降り立ったのも記憶に新しいところですが、東京五輪のために来日したバイデン大統領夫人も横田基地に到着しています。

 

怖ろしいのは、横田基地を利用する「米軍関係者」には当然新型コロナ検疫をはじめとする入国時の検疫は何も行われず、フリーパスだという事実です。そのまま自由に東京の繁華街へも繰り出すことができます。

 

日本がそのような主権国家としてあるまじき状態に置かれている根本原因は、日米安保条約と日米地位協定、日米合同委員会、「指揮権密約」(有事の際、自衛隊は米軍の指揮下に入って戦う)をはじめとする米軍の特権を認めた数々の「密約」にあります。

 

特に「日米合同委員会(米側代表は在日米軍副司令官、日本側は各省庁の高級官僚が出席)」は、憲法を超える存在であるとして国会の国政調査権の埒外にあり、そこでの国政をも左右する数々の重要な取り決め(「密約」)は、今も秘密のベールに隠されたままです。

 

サンフランシスコ条約で形だけ「独立」した日本の戦後政治は、今日までずっと米国の実質的コントロール下に置かれてきました。戦後の日本政治を支配してきた自民党自体が、米国が作り育てた傀儡政党なのですから当然です。

 

それでも歴代総理の対米従属度には多少の濃淡があり、米国の言いなりになって日本より米国の意向や利益を最優先にした吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎、安倍晋三などは長期政権だったのに対し、米国のお眼鏡にかなわなかったり、怒りを買ったりしたと見られる石橋湛山(表面的には病気ということになっています)、田中角栄、鈴木善幸、宮澤喜一、橋本龍太郎、福田康夫などの内閣は短命に終わっています。自民党以外の内閣も当然短命でした。

法的従属

1957年の砂川事件で、「日米安全保障条約」を違憲とした一審の伊達判決に驚愕した日本政府と当時の田中耕太郎最高裁長官は、司法の独立を放棄して裁判の経過を何と実質的な被告側である当時のマッカーサー駐日米大使に逐一リーク。

         

米大使からの指示を受け跳躍上告した最高裁は違憲立法審査権を事実上放棄したため(統治行為論=「安保条約のような重大で高度な政治性をもつ問題は判断しない」)、それ以降、日本は真の意味での法治国家ではなくなっています。

 

           「砂川事件」ダイジェスト
 
「モーニングショー・そもそも総研『日本国憲法はすでに死んでいる?』」
 

これにより日本では最高法規である憲法より国際条約である「日米安全保障条約」が上位に立ち、日本は憲法ではなく「日米安保条約」及び「日米地位協定」の所謂「安保法体系」によって支配される国になりました。

 

ですから、TPPやTiSA(新サービス貿易協定)、日米FTAなどを国家主権をグローバル企業に売り渡す売国協定として裁判に訴えても、「重大で高度な政治性をもつ問題」であるとして最高裁では門前払いになります。     

政府が平気で「解釈改憲」をくり返したり、現行法規を無視したりするのも、最高裁が絶対に違憲判決を出さないことが分かっているからです。

 

他の主権国家と違って、憲法が「停止状態」で十分に機能していない日本において「三権分立」は、画に描いた餅でしかありません。「国権の最高機関」であるはずの国会は事実上行政(内閣)に従属しているのが日本の実態であり、司法や検察も全く同じです。

経済的従属

軍事的、政治的、法的従属について考えてきましたが、経済も例外ではありません。これについては以下のリンクに詳しく書いていますので、参照願えれば幸いです。

 

 

 

同じ敗戦国独伊の現状

さて、同じ敗戦国だった独伊と米国との関係がどうなっているのか、参考のために少し見てみましょう。

 

西ドイツも日本と同様に戦後、米英仏などの占領軍による軍政が敷かれています。1949年の西ドイツ成立後の1955年にNATOに加盟し、不平等な「NATO地位協定」を結びましたが、日本と違って現在では駐留軍の治外法権等の問題はほぼ解消されています。

 

それは、戦後のドイツがナチズムの否定、オーデル・ナイセ以東の広大な旧ドイツ領土の完全放棄による国境線の確定と周辺国との和解、ユダヤ人虐殺に対する謝罪と賠償等を通して欧州諸国の信頼を得、経済発展やEU内での地位向上を背景に、米国などと粘り強い交渉を積み重ねてきた結果です。

 

また、占領状態が終わり、戦前のナチスドイツとは全く別の国家「ドイツ連邦共和国」が成立して以降は、完全に主権を回復した独立国であり、どこかの国に従属しているなどということはありません。

 

これはイタリアも同様で、イタリアに駐留しているNATO軍(米軍)の訓練飛行はイタリアの国内法が適用され、市街地上空を我が物顔に低空飛行するなど法制上もあり得ないことです。必要があればイタリア当局がNATO軍(米軍)基地内に入って査察することも可能です。

「自発的隷従」からの脱却

これに対して日本の場合は、日本政府自体が現在の不平等な日米安保体制に満足して米国に自発的に隷従し、この体制の半永久的な継続を望んでいるため、小幅な改善さえできない状態が70年以上も続いてきたので非常に厄介です。                        戦前、天皇がいた地位に現在は米国が鎮座しているからです。(白井聡『国体論: 菊と星条旗』)

 

明治時代の元勲や外交官たちは不平等条約の撤廃、関税自主権回復のためにそれこそ血がにじむような努力を重ねましたが、現在の政府与党やその周辺の右翼には、そのような気概は全くありません。米国の「代官」あるいは米国植民地の現地支配者としての地位に満足し切っているからです。

 

では、日本がドイツのように真の独立を勝ち取るためにはどうしたらよいでしょうか。日本の頸木になっている日米安保条約の破棄か条約の抜本的改定が必要ですが、野党の立憲民主党までが日米安保条約堅持(現状維持)が党是である現状を考えると、なかなか一朝一夕のようにはいかないように思います。

 

まずは、日本国民自身が「我が国は、アメリカのソフトな植民地とでも言うべき対米従属国家である」という現状をしっかり認識し、その事実に真剣に向き合うことが必要です。   現状を正しく知れば、いかな従順な日本人でも怒りを感じないはずはありません。そこから正しいナショナリズムが喚起され、真の独立と主権回復を要求する国民のムーブメントが生まれてくるのではないでしょうか。

 

日本国民が長い夢から覚め、70年以上も続いた「自発的隷従」による思考停止状態から脱却すればドイツを手本に日本政府を突き動かし、明日からでも「真の独立」のための第一歩として、平等を目指した「日米地位協定」改定交渉が開始できるはずです。