母親は最後の夜、冷たくなった息子を抱きしめながら添い寝した。


昔、近所の大学生がバイクで通学中、対向車と接触し、帰らぬ人となった。


年が近かったみろくは、その話を母親に聞かされた。バイクは危ない、だからダメだと。


危ないし、親を悲しませる訳にはいかない。もうバイクに乗りたい気持ちは封印しよう、そう思った。


結婚し、子供ができた。


「お父さん、バイクの免許とっていい?」


言葉につまった。


息子がバイクに乗りたいと言う。


悩んだ。


そう言えば、みろくも同じくらいの時に、バイクが乗りたかった。


しかし、ふと昔の事がよぎる。


冷たくなった息子を思う親の気持ち。


「分かった。とっていいよ。でも約束してくれ。もし、事故にあい、生死をさまよう事があったら、潔くあの世にいってくれ。」


悲しむ時間をわずかにして欲しいと言う最後の抵抗だった。


息子は免許をとり、沢山の思い出を作った。転倒はあったが、大事に至らず、今も元気に生きている。


みろくも息子の免許をきっかけに、昔からの憧れであった、バイクの免許を取得した。初老のためか、無理な運転はせず、のんびりとバイクライフを楽しんでいる。


もう後何年乗れるか分からない。でも、夢が叶えられて良かった。親の気持ちも分かったし、子供の気持ちも理解できた。いい経験だ。


潔く逝ってくれ。そう伝えた息子であったが、元気な姿を見るとホッとしてしまう。


息子よ。夢をありがとう。

そして、元気でいてくれてありがとう。