バスの中は受験生で込み合っていた。

 

「難しかったねー」

「問3の問題分かったよ」

「もう終わったから、ゲームしに行かない?」

 

バスの中は様々な言葉が飛び交っていた。

でもそこにみろくはいない。つり革を持ち、降る雪を窓越しで見ていた。

寒さも暑さも感じない。人の会話になんの感情も出てこない。降る雪に切なさも感じない。勝利も敗北も感じない。ただじっと駅につくのを待っているだけだった。

 

みろくの大学生受験の体験

 

高校当時付き合っていた彼女と遠距離恋愛をしていた。

将来、学校の先生になろう。

彼女と約束した。

同じ大学に入り一緒に学校の先生になるはずだった。

 

現役時代

ボールペンを何本も使い切り、それを束にしていた。

その数が増えることが、みろくの誇りとなり、夢へ向けて邁進していた。

 

「お父さん、家電メーカ行きたいんだけど、社会は何を専攻したらいい?」

「だったら世界史だろう。」

 

大学に行っていない父親からのアドバイスだった。

高校に入学した当時、家電メーカーに就職したかった。

中学の頃から歴史は不得意だった。暗記が苦手だった。

結果、高校の世界史はいつも赤点。家電メーカーの夢はどこかへ消えていった。

彼女が出来、その彼女と夢を語った。それが学校の先生だった。

 

当時スマホなんてなく、たまに手紙のやり取りをしていた。その中でお互いを励ましあい、将来の夢へ向けて励ましあっていた。

 

いよいよ受験

みろくは先生になりたかった。でも彼女は違っていた。

彼女はごく普通のOLになるという。でもそれでもいい。

彼女はみろくのいる街の大学を受験してくれることになったからだ。

ようやく彼女のそばにいれる。それがうれしかった。

彼女は見事志望校に合格。

みろくはすべて不合格だった。後から先生に聞いた話だが、滑りどめの大学にわずか2点で落ちていたという。それが唯一の自慢だった。不合格なのに。

 

大学生と浪人生。凸凹な恋人同士。でもそばにいることができる。

それはそれで嬉しかった。とは言え、みろくは受験生。そんなに彼女と一緒にいることはできず、近いのに遠距離恋愛と何ら変わらなかった。

 

数か月後、突然の彼女からの手紙。

「終わりにしましょう。」

 

ショックだった。何もできなかった。儚い恋は儚いまま終わった。

受験にも失敗、恋にも失敗。何やってんだか。