緩和ケアの医療現場でも、お茶の代わりに飲めるようにと、「命のスープ」が飲まれているそうだ。
患者さんだけでなく、その家族もいただくことができる。
「命のスープ」は、人々の心にそっと寄り添い、あたためてくれるスープなのだ。
辰巳芳子さんのドキュメンタリー映画『天のしずく』のなかで、辰巳さんは食材にこだわり、下ごしらえを入念にされていた。
その手の動きをみていると、食材や器材を非常に丁寧に扱う姿が見られる。
カットされた野菜がパットに整然と並べられる。
形や向きが揃うさまは、それだけで見惚れるほど美しい。
野菜を炒める時にも、ガシャガシャと無造作にかき回したりはしない。
丁寧に、順ぐりと混ぜていく。
その仕事は、儀式のような神聖さ、厳かさが感じられるものだった。
私は以前、辰巳先生に習った方から、スープをいただいたことがあった。
濃厚なクリームスープは、舌触りが良く、口のなかでとろけ、疲れていた私の身体にしみこみ、癒されていくようだったのを覚えている。
スープには、様々な命の物語がある。
具材が混ざり合う、そのなかに。
そして、それをいただく人々の間にも。
もともと汁物が好きな私は、母が作ってくれたみそ汁やスープを飲むと、一日の疲れが癒されたのを覚えている。
結婚してからは、義母が作ってくれた、おくずかけの味は、忘れられない。
おくずかけとは、宮城県の郷土料理で、片栗粉でとろみ付けされた汁に、なす、ごぼう、人参、みょうが、里芋、インゲン、油揚げ、温麺、干し椎茸などをいれたものだ。
家庭によって様々な味があるらしい。
母のおくずかけは、干し椎茸の出し汁が効いていて、香りや旨みが身体のすみずみへ沁み渡り、命の根っこにまで届くようだった。
私も作ってみるのだが、母の味には到底およばない。
あの頃の私は、二人の母の愛情までも、一緒にいただいていたのだと思う。
食材は命そのもの。
調理する人は、命の橋渡しをする人。
食す人は、それら命を受け渡される。
他の命を軽く扱うことは、自分の命までもそまつに扱うことなのだ。
大切なことは日常の中にある。
どういう心持ちで行なうかこそが、大切なことなのかもしれない。