家の部屋からは、遠くに海が見える。
太陽のあたる角度によるのか、冬の間はゴールドに輝く海を見ることができる。
海の世界を、一度見たかった。
雑誌で見るように、あんなに美しい景色を見られるならやってみたいと思った。
一度では、済まなかった。
もらったお給料のほとんどをつぎ込んでしまった。
海に潜った最初の夜は、うなされた。
身体にかかる水の圧力が残っているようで、苦しかったのだ。
そして、寝ている部屋の天井を見上げ、なんと広い部屋なのかと、思った。
いつもの六畳なのに、なぜ。
海の中で、無重力のように、空間の縦、横、高さを行く経験をしたからだった。
わたしの身体の感覚は、天井までも行動できる範囲として、空間を捉えていた。
グレーブルー、透き通るアクアマリン、ターコイズ、サファイアブルーの海は、たくさんの命で、溢れていた。
魚に、勢いよく、手をつつかれたことがある。
卵が近くにあったのだ。
コウイカは、威嚇のため、身体の色をどんどん変化させていく。
それは、マジックショーのようだが、イカにとっては、危機を目の前にした、必死の威嚇行動だ。
潜らなければ、見ることがなかった世界だった。
そして、 心の中に、よく思い出す景色がある。
それは、海の洞窟の奥。
光が大きなスポットライトのように差し込んでいた。
そこには、仲間の一人がいた。
わたしは、その美しい姿にうたれた。
わたしは、日常を離れて、心から感じていた。
たくさんの生き物を見た。
その中でも、人はなんて美しい姿をした生き物なのだろう、と。
目に見えているものが、すべてとは限らない。
そして、見えているのに、わからなくなっているものもある。
音楽、美術、スポーツ、読書…おもしろそうな扉をたたいてみる。
そして、そこから日常へ戻る。
世界はとても広かったことに気づく。