
現時点においては、皮膚のどの組織が受容器なのかはまだ究明されていない。身体の表面にどんなメカニズムがあるのかも分からないが、いろんな領域の研究者が関心を持っているテーマだという。資生堂による研究では、傷ついたマウスの皮膚に高周波の音を当てると皮膚の防御機能が高まる(皮膚を守るための分泌物が促進される)ことが突き止められ、皮膚科専門の学術誌で既に報告されている。音楽を皮膚に聴かせると傷が治るなんてSFのような世界だが、学術的に証明された事実だ。目には見えない紫外線が日焼けを起こすことを考えれば、耳には聞こえない高周波が肌に何らかの刺激を与えているのは、むしろ自然なことでもあるような気もする。知られざる感受性は、我々の身体にはまだまだたくさん隠されているのだ。
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高周波成分を一緒に身体から受けることで、脳内の報酬系を刺激し脳幹が活性化する現象は「ハイパーソニック・エフェクト」と名付けられているが、ここに来て一躍注目される機会が多くなってきている。ハイレゾの存在だ。
音が良いとか、より原音に近いとか、ハイレゾの魅力は様々な角度から語られているけれど、実のところ何より重要なのは、これまで知らずしてカットされてしまっていた音楽の旨味成分をしっかりと復活させ、「音楽が本来の力と魅力を取り戻す」ことにあると私は思っている。脳幹の活性化は、そのまま心と身体の健康に直結し、心地よさ/健やかさを呼び起こすとともに、生命力を高めるという生存本能そのものに直接訴えかけることを意味する。心の病やアレルギーなど現代病と言われる様々な疾病が、種としての生命力の低下によって噴出しているものだとすれば、心のビタミンである音楽を本来の形で受容することは、想像以上に重要な事なのではないか。
好きな音楽を聞いて感動しているときには身体の状態もいい。いい音を求め心地よいサウンドに身を委ねるのは、自らの生存値を上げていく行為にも等しいと考えられる。心地よい音楽を耳から聴くと同時に、音楽のビタミン成分を浴びるように身体で受けて、健やかな毎日を過ごしたいものだ。
デジタル時代、不完全な状態で音楽が流通してしまっていた事実が、人間にどういう影響を与えてしまったのかまでは分からない。ただ、例えばこのような心理実験結果がある。デジタル世代の若い人に、アナログレコードとCDの聴き比べをしてもらうのだ。その時の脳波を測ってみると、高周波を含むアナログレコードの音を聴いている時のほうがアルファ波が出ており脳の状態としては快感が高まっている反応を示すそうだ。しかしながら、どちらの音が好きかを訊くと「CDの音が好き」と答えたという。つまり「生理反応と心理反応に不一致を起こしている」状況が見られるのだ。これは見逃せない深刻な問題を示唆しているのではないのか。
音楽が売れなくなっている現実を、どう見るか。一方でライブに人が多く集まるのも自然の摂理といえるのではないか。人工物にまみれた現代社会ではあるけれど、まだまだ本能に根ざした人間の嗅覚は頼りにするべきものかもしれない。ハイレゾは、かつてのアナログが持っていた芳醇な音楽をそのまま表現してくれる待望のフォーマットだ。高周波をも含め健全に正しく音楽を楽しめるようになるにはもう少し年月がかかるかもしれないが、音楽が持っていた力が、今取り戻されてきていると感じているのは、私だけではないだろう。
ちなみに素朴な疑問として、デジタルに変わる前のアナログ時代の録音/再生機器が、可聴域を超えた高周波までをもちゃんと取り扱うだけのレンジを持っていたのかも気になるところだが、概ね大丈夫だったようだ。レコーディングの録音機器であるスチューダーのようなアナログマルチは70KHz以上の超高周波をラクラク収めることができ、スタジオ用のマイクも例外はあるものの、50KHz以上のレスポンスをもつものはあるという。ことビンテージと言われるようなマイクも広帯域のものが多く、もちろんLPレコードには非常に高い高周波成分までが溝に刻まれており、品質の高いピックアップ(レコード針)であれば十分に再生することができるものだった。
そもそもアナログ楽器には高周波がバンバン出るものがたくさんあった。名機シーケンシャル・サーキットのプロフェット5などは高周波がすごく出るアナログシンセのひとつだ。一方でデジタル楽器は、信号を人工的に数値に落としこむために、設計時に何を信号にして何は捨てるのか要/不要を明確に線引して確定的に設計するため、サウンドの表現領域を可聴域だけに収斂させてきた歴史がある。今もなおアナログ楽器の人気が衰えないのは、旨味成分がカットされた人工食のようなデジタル音質に対する、帰巣本能なのかもしれない。
音楽が表層だけで語られてしまった暗黒の30年を経て、ハイレゾとともに、音楽産業はまた大きな飛躍を遂げていくと私は信じている。不毛の30年は取り戻せないが、この間に生まれ育った子どもたちに、一刻も早く芳醇なサウンド体験を提供する必要があるだろう。
text by BARKS編集長 烏丸哲也
K's MUSIC「ドラム人間科学理論」の参照記事
38. 聴力の盲点と弱点
前回のドラミングアドバイス(本能を刺激する音=身体共鳴)が、予想外の大反響を頂きました。「目からウロコが落ちた」「スランプから抜け出せた」等、わざわざ感謝のお電話を下さるプロドラマーの方も多数おられ、私達K's MUSICとしても喜ばしい限りです。そこで今回は“身体共鳴”について、科学的な側面から解説しようと思います。

●絶望的な話ですが、鼓膜で捉えた音を脳に伝える有毛細胞は、年齢と共にどんどん減っていきます。そして死んだ細胞は二度と再生する事はありません。医学の世界でも「人間は生れた瞬間から聴力が衰えてくる」ことは、すでに常識。10年後、あなたの聴力は今より確実に衰えています。
●個人差もありますが、人間の鼓膜は、約100dB以上の大音量では歪んでしまい、その歪んだ音しか脳に伝えることができません。つまり、100dB以上の大音量になるバンド演奏中に、鼓膜(耳)だけで全ての音を把握するのは、絶対に不可能です。
●音楽家にとっての「耳を鍛える」とは“脳の音色識別能力”を向上させるということになります。そのためには、鼓膜の空気伝導以外の音色識別能力である、骨伝導聴力が必要になります。
●右の図は、医師で聴覚心理音声学の権威として知られる、アルフレッド・トマティス博士の骨伝導聴力に関する研究成果の一部です。この医学的研究から言えることは、音の周波数の高低によって人体の共振する部位は異なっているという事実です。
●あなたが奏法を変えることで、あなた自身の骨盤を強く共振させる音が出せるようになれば、それは同時に聴き手の骨盤をも共振させる音が出ているという事なのです。つまり“身体共鳴”とは、聴き手の本能に直接働きかけることで自律神経にまで影響を与え、迫力や感動を聴き手に実感させることができる方法です。
●ドラマーに限らず、マジメに音楽を学ぼうとする人ほど、興味がフレーズやパターンにいってしまって、音色が二の次になる傾向があるようなので注意が必要です。
●音は脳に伝わって初めて認識されます。“脳の音色識別能力”をより向上させるためには、意識して全身の振動を感じることです。そうすることで感性が増し、先鋭になります。ドラミング(音楽表現)の向上には、こうした“意識改革”が必要不可欠です。
ところで、よく“腹に響く低音”と表現されたりしますが、その際に「人間の骨盤が骨振動を起こしている現象」を体験し “頭のてっぺんに響くカン高い音”の場合は実際に「頭蓋骨が骨振動を起こしている現象」を発現しているはずなのです。
この「骨伝導」を使う以外にも体毛,眼球等の高周波知覚や、精巣,子宮を含む内臓の低周波ゆらぎ知覚等でも音楽を認識する能力が本来私達にはそなわっているはずです。ライブ会場で音楽を聴く方が、CD等よりも強く印象に残るのは、鼓膜の空気伝導以外にこの「身体共鳴現象」が強く発生するためなのです。


