安岡本が売れている、と知人に話したら「安岡本? ああ、あの細木数子の昔の恋人だった人物ですね」という意外な答えが返ってきた。
陽明学者の安岡正篤さん(1898~1983年)は歴代総理の指南役。「史記」にある「内平外成」という言葉から、新元号「平成」を考案したとされる人物である。
六星占術師の細木さんは高視聴率が取れる「女・みのもんた」。彼女の数奇な一生?が雑誌や週刊誌のネタになって、確かに“最後の恋人”安岡さんも有名になった。
ひょっとすると、細木さんが「安岡本ブーム」の火付け役かもしれない。
安岡さんが病に倒れた83年秋、細木さんは彼の直筆の結婚誓約書を盾に?婚姻届を提出、話題になった。大学者の老いらくの恋? 安岡さんの家族と対立するスキャンダラスな恋だった。
その真相は依然、謎だが、東京・赤坂のクラブのオーナーだった細木さんが占師として大成したのは安岡さんから独特な「人間学」を伝授されたからだろう。安岡さんこそ「視聴率の女王」の生みの親である。
今、その安岡さんの著作が隠れたベストセラーになっている。日めくり型の「安岡正篤一日一言」は実売部数10万部である。
靖国論争→自民党総裁選→アジア外交再構築(→教育改革→憲法改正)と続く政治プログラム。一言で「右傾化」として片付けられるものではないが、7年8カ月の佐藤栄作政権で重要演説に筆を入れ続けた安岡さんの「言葉」は保守陣営の理論武装になっている。一時「右翼の黒幕」と言われた安岡さんだが、今や自民党のバイブル?
陽明学には疎い。論ずる資格はない。が、田中角栄元首相が金脈問題で窮地に立たされた時、安岡さんが授けた言葉には感動した。「目白の家を売りなさい。総理を辞め、議員も辞めなさい。これをすぐやれば必ず後で、角さんコールが起こる」。月刊「BOSS」10月号で門下生の下村澄(きよむ)さんが証言している。
僕の勝手な解釈だが、しょせん、家屋敷(形のあるもの)は神様からの「借り物」。あの世には持っていけない。角さんが死んで目白御殿の一部は相続税として物納され、09年には運動公園になる。
安岡本が売れる本当の理由……それは横行する金もうけ主義をいさめる道理にあるのだろう。