注目選手 ~この選手から目を離すな!~

回り道を好むアルゼンチンの王様

アルゼンチン代表で“王様”として君臨するリケルメ。その美しく、優雅なプレーがアルゼンチンの命運を握っている。(Photo:Photogamma/AFLO)
 せわしないこの世の中で、リケルメの周りだけは、ゆったりと時間が流れている。

 プレスをかけられようが、1点リードされていようが、いつだってリケルメは美しく、優雅にプレーするのである。

 アルゼンチンの伝説の選手、バルダーノは、リケルメのことをこう例えた。

 「A地点からB地点まで移動するとき、たいていの人は高速道路を使う。できるだけ早く移動したいからね。でも、リケルメは違う。何時間かかろうが、美しい景色を味わうために、曲がりくねった山道を選ぶんだ」

 あくまでマイペースの司令塔。だからリケルメが、どのクラブでも活躍できるというわけではない。2002年にバルセロナに移籍したが、騒がしく、煩わしいビッグクラブの雰囲気に馴染むことはできなかった。

 「リケルメは“王様”じゃなきゃダメなんだよ」とアルゼンチンの人々はつぶやいた。

 でも、03年にビリャレアルにレンタル移籍したことで、リケルメは望んでいた環境を手にする。チームの絶対的な中心に据えられたリケルメは自由奔放にプレーし、05年夏にはマルカが選ぶ“リーグで最も芸術的な選手”に輝いた。そして今季、ビリャレアルのチャンピオンズリーグ・ベスト4に大きく貢献する。準決勝のアーセナル戦ではPKを外してしまったが、誰も責める者はいなかった。

 かつてワールドユースをともに勝ち取ったペケルマン監督のもと、リケルメはアルゼンチン代表でも“王様”として君臨している。4年前にW杯のメンバーから落ちた悔しさを、晴らすときがきた。

 「02年は、弟が誘拐されて、W杯どころではなかった。ドイツW杯はもちろんトロフィーをこの手で掲げたいが、まずは準決勝に届くことが大事だ。親善試合でクロアチアに負けたが、あくまで練習の場。アルゼンチンは世界一のチームだと思っている」

 ボカ・ジュニオルス時代にリケルメとともにプレーしたことがある高原直泰が、こんなことを言っていた。

 「リケルメのパスはヤバイですよ。本当に欲しいところに、1cmの狂いもなく、ピンポイントで来る。こんなパスは受けたことがない」

 数年前までは、知る人ぞ知る“アルゼンチン国内限定”のローカルなスターに過ぎなかった。だが今では、彼の才能を誰もが知っている。

 ボールを奪ったら慌しく攻める現代のサッカー界に、リケルメの悠然としたスタイルが新風を吹き込む。