【氷上のクジラ】




ジョルディールは、オオワシの翼の音を追って、ずんずん進みました。


周りは、真っ白な深い霧でしたから、岩につまずいたり、濡れた登り坂をずり落ちたりは珍しいことではありませんでした。


それでもジョルディールは、ひるまず、登り続けました。


闘志を燃やす、という言葉が、今のジョルディールには、ぴったりかもしれません。


何しろ、鼻の頭に、トンがったサボテンのトゲを、五本刺しても、登り続けたんですから。


もちろん、ジョルディールは、ありったけの声をあげて、飛び上がりましたよ。

それで、オオワシが心配して、思わず、

「だんなぁ、死んじまったんですかぁ?」


なんて、聞いてしまったのも、無理はありません。


それほど、物凄い声が、霧の中から、聞こえてきたんです。

その時、ジョルディールが、

「ジョタヘリョ~ル」


と鳴いてしまったことだけは、君だけの秘密にしてください。


そうこうしながら、日も暮れる頃、ジョルディールは、とうとう霧のトンネルから、抜け出すことができました。


視界が広がり、ジョルディールの目に飛び込んで来たのは、氷ついた大きな湖でした。


ジョルディールは、空を見上げて、オオワシにお礼を言いました。


「なあに、お安いご用でさあ」


オオワシは、そう言うと、翼をひるがえして、今来た方角へ戻って行きました。

そんなオオワシを見送りながら、ジョルディールは、歌を歌いました。


不思議なことに、歌は自然と口からついて出てきました。


初めて歌う歌なのに、何度も口ずさんだ歌のようになつかしい気持ちになりました。


その時です、湖の真ん中の氷が大きく盛り上がりました。


まるで、氷の山が一瞬にして、そびえたったかのようです。

次の瞬間、目を疑うような光景をジョルディールは目にしました。


氷の山が大きな魚に変わり、宙に飛び上がり、ひるがえったのです。


ふたたび、氷の湖に体が落ちると、地を這うように地鳴りがとどろきました。


ジョルディールは、恐る恐る氷の湖に近づいて行きました。

ふしゅーっ、という息づかいと共に、氷シブキをあげて、氷の上に顔を出したのは、まぎれもない、大きなクジラでした。



〈続く〉


★★★ワニのジョルディール13★★★