【Lesson 8】




辺りにひとしきり重苦しい羽音が響き渡った。


深い夜が来た。


僕はあの爬虫類が仮面の中に潜んでいる木の前に向かった。


猫のように身を屈め、仮面の目を覗き込む。


仮面の中に爬虫類の気配はない。


仮面の内部の空洞から、


「キ――ン。キ――ン」


と、何か音が鳴っている。


その音を聞いた時、思わず、仮面から顔をそらせた。


一瞬、サラサラの光の粉が円くふわっと膨らみ、仮面の中で弾け散った光景を目にしたからだ。


まばゆいばかりの光に当てられて、僕は頭がふらつき、しばらく目を開けることができなかった。


「あいつ、どこへいったのだろう? 」


僕は見えない目で、遠くの夜空を見上げた。


かすかな雨の音が聞こえる。


やがて、雨の音が遠のきはじめると、辺りの空気がやけに息苦しく感じられてきた。


だんだんと気が遠くなっていく。



僕は椰子の鬱蒼と繁るジャングルの中に、自分を見出だした。


上半身が裸だった。


裸のはずの胸元から、忽然と何かのボタンがはずれ、地面に落ちた。


何だろうと、下を探してみたが何も見つからなかった。


形のない透明なボタンを僕は落としてしまったのだろうか?


僕は急に不安になった。


僕からはずれてしまったボタンは、きっと僕の生きる強みであるような予感がしたから。


ボタンをなくし、はじめて僕はそのことに気がついた。


ボタンがついていた時の僕は水鳥だったことに。


水面から飛翔し、上昇気流に乗り空高く舞い上がることができたことに。


だが、ボタンはもう落ちてしまったのだ。


ガッカリしながら、歩き通した。


本当に身一つになり、本当に掴むもののない手ぶらで歩いている気分は、心配を通り越して、悦楽となってきた。


足下に咲く花々たちは、絶え間なく花びらを風車のように回転させ、思い出の香りを投げかける。


やがて椰子のジャングルを抜けると、緑の平原に出た。



〈続く〉