【タンポポ世界のアダムとエバ】




「そんなところを、なぜ、なくしてしまったの? 」


ポポさんは聞いてみた。


「それがね、今日浜辺をさんぽしていたら、上にトンビが飛んでいたんだ。
僕はしばらくそれを眺めていたんだけれど、あんまりくるくる回ってばかりいるものだから、ねえ、トンビさん、あなたは、何をなさっているのですか?
と聞いてみたんです。
そしたら急に矢のように僕めがけて飛んできて、僕の髪をむしっていったんだ」


と、わたろうさんはくやしそうに、言った。


「タンポポのぶんざいで、二度とオレ様に口を聞くな!
お前なんぞには分かるまいが、これは、オレたち一族が長年してきた儀式なんだぞ!
こうしていつも、お日さまに祈りながら、力を与え続けているのだ。
今日お日さまが照っていることだって、これはオレたちのおかげなんだ、わかったか! 」


わたろうさんは、トンビの口まねをしてみせた。


「こんなことを、つべこべ言っているんだ。ずるいだろ。
お日さまはみんなのものでもあり、誰のものでもないのに」


ポポさんも、わたろうさんも、一人暮らしをしている。


二人とも、父親とか、母親という存在が、タンポポにもあるということさえ知らない。


初めからタンポポというものは、自分たちから始まったというような気持も少なくはなさそうだ。


まるでタンポポの世界のアダムとエバだ。


もしかしたら、この世の中のありとあらゆるタンポポたちは、みんなごくごく当たり前に、アダムとエバに近い境遇にいるのではないか。


物心がついた頃には、ふたりは、もう、ポポさんと、わたろうさんになっていた。



〈続く〉