大阪府は29日、新型コロナウイルスの感染拡大に備えた休業要請・解除などの独自基準「大阪モデル」の新たな修正案を明らかにした。22日の専門家会議で示した修正案を見直し、警戒を意味する「黄信号」をさらに点灯しにくくする。経済活動を重視するためだが、感染拡大防止との両立を図ろうとする中で、全国の先駆けとなった大阪モデルは着地点が定まらない状況が続いている。
■基準引き上げ
現行モデルでは、〈1〉感染経路不明者が前週から同じか増加〈2〉感染経路不明の新規感染者がおおむね5人以上〈3〉検査を受けた人に対する感染者数の割合(陽性率)が7%以上(いずれも直近7日間の平均)の指標を設定。一つか二つを満たせば「黄信号」、すべてを満たせば、休業要請や外出自粛を求める「赤信号」とする運用になっている。
府は22日の専門家会議で示した修正案で、〈3〉に代わり、感染の急拡大を探知しやすいとして、新規の陽性者数が「直近7日間で120人以上」かつ「7日間の累積が4日連続増加」との新指標を設定。「黄信号」の点灯は〈1〉~〈3〉のすべてを満たした場合にとどめ、事実上基準が引き上げられた。
29日の対策本部会議ではさらなる修正案として〈1〉を前週から2倍以上、〈2〉を感染経路不明の新規感染者が10人以上とするなどと提示。「黄信号」を一層点灯しにくくする形となった。
■政治日程も考慮か
複数の関係者によると、再度の修正には、経済活動への影響を懸念する吉村洋文知事の意向が色濃く反映されているという。「黄信号」で休業要請などは行わないが、感染拡大への警戒感が広がり、回復途上の経済が再び冷え込んでしまう可能性もあるためだ。
29日の対策本部会議では当初、府が22日に示した修正案を正式決定する予定だった。だが、東京都では6月に入って新規感染者数が10~60人程度で推移。この状況を大阪に当てはめたところ、元の修正案では6月16日にも「黄信号」を点灯することになると判明し、「この状況で注意喚起すれば、経済が一層ダメージを受ける」(府幹部)との認識が高まったという。
今後の政治日程が影響しているとの見方もある。大阪市の松井一郎市長(大阪維新の会代表)は「緑信号」が続けば、大阪市を廃止して4特別区を新設する「大阪都構想」の住民投票を11月1日に予定通り実施する意向を示しており、別の府幹部は「できるだけ『黄信号』が点灯しないようにして住民投票の環境を整えたいのでは」と推し量る。
■国基準も活用
府庁内部では「感染拡大の兆候を見逃す可能性がある」との懸念も強い。
そこで、新たな修正案では、都道府県が外出自粛などを要請する際の基準の一つとして国が示す「直近1週間の10万人当たりの新規感染者数が2・5人」を満たした場合、大阪モデルの新基準をすべて満たさなくても「黄信号」を出す運用方針案も示された。府は専門家の意見を聞いた上で7月中に新モデルを確定させたい考えだ。
吉村知事は会議後、記者団に「専門家の意見を尊重した上で最後は政治、行政で決定する。議論の過程を公開しているので、決めたことが二転三転しているのではない」と強調した。
大阪府が29日に提示した新たな修正案には、「大阪モデルは政治判断の基準」とする吉村洋文知事の考えが前面に出ている。
吉村知事は政府の緊急事態宣言発令中から「経済が死ねば、企業が倒産して多くの失業者が出て、命を落とす方がいる。この命を守るのも政治の役割だ」と繰り返し強調してきた。
吉村知事はこれまで様々な対策をトップダウンで打ち出し、評価を高めてきた経緯がある。経済重視の再修正案についても、府民らの理解が得られるとの判断があるとみられる。
だが、今回の案は感染急拡大の兆候を見逃す危険性もはらむ。感染拡大の波に襲われれば、病床があっという間に埋まり、重症者に十分対応ができない「医療崩壊」を招く恐れもある。
第2波への備えは今までの方法で首尾よく行くとは限らない。専門家らの多様な意見を踏まえ、医療施策が後手に回らない体制づくりや府民への丁寧な説明に取り組むことが求められる。