◾️どうせ世界は終わるけど

面白いです。

薄氷の上に成り立ってる世界や、言い訳にすがって生きている様を痛感させられ、それでもなお前を向いて歩こうとする姿が素直にいいなと思えます。

短編集なんですが、最後の一編を読み終わって、もう一度最初から読み直してしまいました。

オススメです。

 

 

◾️人新世の「資本論」

遅ればせながら読みました。

結果はイマイチ。

現状分析まではOKなんですけど、じゃあどうするか?というところで、マルクスオタクによるマルクス推しが凄すぎる。

よほどマルクスのことが好きなんだろうなあと思えますが、マルクスありきの方法で、うまく行くとはとても思えません。

現状の分析と資本主義批判は舌鋒鋭いのに、自説のコミュニズムの説明になると途端に無邪気にナイーブになっちゃうし、さらに技術革新も自由な活動すらも危うくなりそうな、管理社会のニオイがプンプンします。

 

さらには2019年に起きた世田谷区の保育園閉園騒ぎにしても、実際には無給で2週間で活動中止という、保育士さんたちの多大な負担による転園までの繋ぎでしかなかったことを、あたかも現場の保育士さんたちが自主経営をうまくやったかのように書いていたり、バルセロナのフィアレスシティの取り組みも結局は数年で市政交代になってることなど、自分の都合がいいように書きすぎです。

もっと言えば、現在のシステムに代わりうるものを理念ではなく、詳細にシステム設計をして提案しなければ本当の変革など出来はしません。

市民による運営が、善意に満ち、利益誘導や利益追求に走らず、牧歌的な脱成長社会を実現できるという無邪気さがどうにもこうにも…

結局は著者は傍観者であり批判者でしかないということでしょうか?

 

それはそうと、「人新世」というのはこの人オリジナルの概念ではなかったのですね。

にもかかわらずなんでこれほど話題になったのだろう??

きっと筆者が嫌いと言うマーケティングがうまかったからでしょう。

オススメはしません。

 

◾️神都の証人

うーん、普通です。

ちょっとぎこちない文章と都合が良すぎてとんとん拍子に進むストーリー。

テーマはいいだけにちょっと残念。

ただ波子さんの最後の一節は良かったです。

 

◾️近畿地方のある場所について

映画化もされたホラーですが、イマイチ。

断片的なエピソードをバラバラに載せてキワモノ感を演出しつつ、そこから一つのホラーにまとめていきたかったのでしょうけど、残念ながら全然怖くない。

ジジイくらいの歳になると祟りとか呪いとかよりも生身の人間の方が余程怖いことを知っています。

具体例も枚挙にいとまがないほどに。

 

◾️ティッピングポイント

面白いです。

しかも読みやすい。

ただし、事例の羅列だけに終わってる感が少しあります。

いいとか悪いとかではないので、じゃあ、どうすべきか?はなかなか答えの出ない問いだと思い、こういう事象があるということを知れたことが良かったと思います。

オススメです。

 

 

◾️ジェイムズ

ジジイは読んだことがありませんがアメリカの児童文学の名作と言われている「ハックルベリーフィンの冒険」の逃亡奴隷ジムからの視点の作品です。

ハックルベリーフィンの冒険ではジムは言葉遣い含め愚鈍な人間だと描かれているようです(当時の黒人奴隷のステレオタイプ)が、実際にはそういう人間を演じなくては生命の危険がある社会で生きるための術だったというのがこの作品です。

人種差別が命の危険があるほどというのは日本人には理解し難いと思いますが、海外生活が長かった、しかもホワイトではないジジイにはよくわかります。(とは言え命の危険は経験してませんから所詮大した経験ではないのでしょうが)

重そうな小説だと思えますがそんなことはなく、サクサク読めますし面白いです。

オススメです。

 

 

◾️廃集落のY家

まあまあです。

でもやっぱりあんまり怖くない。

一番怖いのは生きてる人間ですね、やっぱり。