私は落語が好きで、とりわけ「左甚五郎もの」は大好きな演目である。
録音などが残されたものでは、桂三木助師匠、桂歌丸師匠のものは名演だと思う。
左甚五郎に「三井の大黒」という噺がある。
京都でブラブラしていた左甚五郎のところに
「阿波の運慶先生に恵比寿像を彫ってもらったので
対の大黒天像の彫刻を依頼したい」と越後屋から使いが訪ねてくる。
ただし、仕事を受ける条件として「納期・完成の約束なし」と含ましたうえで依頼を受け、
手付金を受け取る。
とんでもない契約内容だが、名人ゆえになぜか成立する。
その後、江戸まで来て訳あって世話になった大工の棟梁の家で
半ば忘れていた大黒天を彫り、納品、残りの金を受け取るという噺。
私は実にい加減な性格だが、「約束したことは守る」ということだけやってきた。
だから、どんな些細なことであれ、「できない約束をする人間」を私は信用しない。
さらに、時間の約束すら守れない人は用事がない。
小さなことでも積み重ねることで信用が生まれる、と私は思う。
信用は築くのは難しいが、失うのは一瞬である。
この噺ではふとしたきっかけで、忘れていた約束を思い出す。
そして、大黒天を彫りだし、納品する手はずとなる。
この噺で感心する場面に、左甚五郎が道具を大事に手入れする様子が描かれている。
イチローもそうだったが、道具を大事にしないものに仕事はできない。
私もそう思う。以前の仕事場でもそうだった。
機械のメンテナンスが仕事だったが、大抵の奴の道具の扱いは雑で、手入れもしない。
さらに、道具を投げる馬鹿がいたが、教養というのは大事だな、と本当に思った。
この「三井の大黒」という噺、彫り上げた大黒天を納めるにあたって
運慶がつけたうたに、左甚五郎が言葉をつなぐ。
「商いは濡れ手で粟のひとつかみ」(運慶)
「守らせたまえふたつかみたち」(左甚五郎)
こういう、粋な噺はいいですな。