【柔道部物語：欧州版コンデ・コマ】
自分の卒業した大学の柔道部には、鬼の柔道家として知られる柔道の神様の他に、もう一人柔道の神様がおられます。
旧制大学の予科に入学直後の講道館で行われた紅白試合（４段の部）で15人抜きをして、即日５段に昇段し、戦後、GHQの依頼で米兵に柔道を指導した後、ヨーロッパへ渡り、アントン・ヘーシンク（前東京オリンピック金メダル）やウイリアム・ルスカ（柔道の世界チャンピオン⇒プロレスラー）を指導された先生です。ルスカを少年の頃から指導しており、身長166ｃｍ体重75kgという小柄ながら道場においてルスカの態度が良くない事があり、道場の端から端まで平手打ちした所、別人のように態度が良くなり一層、稽古に励んだという事もあったそうです。
ルスカが２６歳の時、当時40代にもかかわらず、寝技で子供相手の様にあしらい、ルスカの事を「立技で日本人の2流級、寝技で日本人の5流級」と言っておられた直後に、ルスカが柔道の世界チャンピオンとなり、事実上柔道世界一となった事を知り、日本の柔道が衰退したと嘆いていたそうです。
ヨーロッパにおいて様々な格闘技の4,000人と試合をして遂に負け知らずの実績を持ち、南米において異種格闘技戦を繰り返した柔道家・前田光世にあやかって「欧州版コンデ・コマ」との呼び声も高いそうです。
皇宮警察や大手警備会社（オリンピック選手の多い）の師範をされるかたわら、時折大学の道場へ来て、我々に指導をしてくれておりました。
独特のスタイルで、相手と組んだ瞬間、ダンスを踊っているような軽いステップで、少しジャンプし、着地した時には、投げ技の態勢に入って、知らぬ間に投げられるという、「事前作り」というスタイルでしたが、誰も引き継ぐことが出来ませんでした。（神のみぞ知る技）
マネージャーをしていた時に、先生が柔道の技術本を出版されるという事で、カメラマンと一緒に道場で、技の写真を撮影していた所、柔道着が白く背景の壁も白い為、うまく撮影ができずに困っておりました。そこで、自分が壁に暗幕を貼り、その前で撮影をすれば、白い柔道着が鮮明に映ることを提案した所、無事きれいに撮影する事が出来ました。先生は、大変感謝されてくれた様で、出版した本に署名をしたものと、自作の柔道の墨絵をプレゼントしていただきました。（現在は、額に入れて押入れのどこかで寝ています）
日本では、超有名では、ありませんが、ヨーロッパの柔道界では、神の様な存在である偉大な先生に指導を受け、同じ時間を共有できたことを幸せに思っております。
