月組初日を見ました。まさか、これほど大泣きさせられると思ってなかったです。暗いけれど緊張感に満ちた好きなタイプの作品でした。ポスターもカッコ良いのですが、実際の舞台は遥かに激しく美しく切なくて、何より物語がドラマチックで感動しました。


幕開けは三国志で知られる呂布が処刑前に発したとされる「きつくてかなわん、ゆるめてくれ」という、手縄をかけらた男の言葉から。しかし物語は途中から原作を離れ、その男は自分は替え玉だと言う。そして呂布を中心とした総出のプロローグへ。



主軸は希代の武将・呂布(鳳月さん)が義父の丁原(佳城さんん)や主君の董卓(風間さん)を裏切った理由と、彼の孤独を氷解させた女性(天紫さん)との運命…で、三国志を基に栗田先生が想像力豊かに創作した骨太な歴史物であり、崇高な深い愛の物語でした。


花組「蒼月抄」に続いてこの作品も大量に人が死ぬのですが、今回は主役も二番手も徹底した悪役で驚きました。主役は人を陥れ、ヒロインは身代わりで敵地へ赴き、それを分かった上で受け入れる二番手。三番手も偏執的で、四番手も主君への疑念を逡巡。各々が裏の顔や葛藤を抱え、張り詰めた心理劇で目が離せずでした。


中でも、呂布の少年時代のエピソードには胸をえぐられる思いでした。出自で差別され、彼の背負ってきた傷の深さに触れた瞬間、それまでの非情な振る舞いが違って見えて、気づけば涙が止まらずでした。私の遠い昔の記憶も甦り、作劇の巧さに陶然となりました。


中国的な豪華絢爛な舞台装置や衣装、叙情的な音楽、迫力ある振付や殺陣、そしてこれが宝塚での芝居での初指揮となる石井勇魚さんの力強く真摯な姿にも心惹かれ、栗田先生を中心に若い人材も含めた宝塚の総合芸術としての力に改めて感動もしました。


勿論、全体的に暗いので好みが分かれる部分や、娘役の活躍の場が限られている点など課題も感じました。それでも馬鹿馬鹿しい軽い作品が多い最近の宝塚でここまで見応えのあるオリジナル作品が登場した事、月組陣の情感溢れる熱演に触れられた事に感謝です。


呂布を演じた鳳月さんが圧巻でした。冷酷さの中に宿る美しさ、深い心理描写、歌や立ち回りの素晴らしさなど、気づけば完全に心を奪われていました。ラストもたっぷり魅せて、終幕時の表情には悲しみと安らぎが同居し、私は思わず号泣してしまいました。


天紫さんは前半の清らかな佇まいから一転、後半の自分の命と引き換えに董卓の寝所へ向かう姿があまりに凛々しくて哀しく、この場面の緊張感に息苦しくなるほどでした。歌も情感たっぷりで、愛する人と旅立てる笑みをふと浮かべた終景も絶品でした。

 

風間さんの迫力ある悪役ぶりが見事で容赦ない残虐非道が恐ろしいほどでした。礼華さんと彩海さんも最後まで“黒”を貫く役どころだったのも慶ばしく、普段、この3名はお笑い担当になる事が多かったので徹底的な悪役を見る事が出来てファンとして感無量でした。


下級生から上級生まで、それぞれが確かな存在感を放ち、歌やダンスの巧い下級生や凛々しい若手もいて、月組の芝居力と結束の強さを感じる舞台でした。改めて月組が好きと思えたひとときでした。



斎藤さんのショーは、苦手なギンギンギラギラで無意識な防身本能で目と耳が閉じてしまいました。アクセルとブレーキの両輪でなくアクセルばかりで、中詰めの二階席にも来てくれた客席降りや終盤の黒燕尾とカクテルドレスの群舞は楽しめましたがあとは選曲も似ていたし、相変わらず、斎藤さんとの相性の悪さを再実感でした。


星を回って集める…というコンセプトは分からずでした。近未来的な雰囲気にUber配達員や恐竜というより爬虫類を模した装置など、宝塚のクラシカルとは対極な構成や爆踊りの連続に感じたのは、次の年末の月組大劇場公演は「エリザベート」だろうという確信。


この予想が当たるのを願いながら雨の満開の桜の中を帰路につきました。ショーの記憶が殆んどないので次はきちんと見なきゃですし、何よりお芝居の世界観にもう一度浸りたいので、是非再見したいと思っています。