私がパートで働いている喫茶店の同じフロアに、小さな映画館がある。
座席数もそれほど多くなく、スクリーンは小さめ。
それでももう半世紀近くも続いているらしい。
喫茶店のオーナーがこの映画館も経営しているので、そっちの仕事もたまにやったりする。
この仕事をしていてイイ事は、一部を除くドリンクが飲み放題なのと、上映している映画がタダでみ放題という特典があると言うこと。
映画観放題はかなり嬉しいけど、喫茶店の仕事が忙しくなかなかその恩恵にあずかることが出来ない。
観れるのは機器を止める前に流れるエンディングくらい。
しかし何十年も続いてきたこの古い映画館も、いよいよ幕を下ろすときが来たのだ。
今年中の閉館が決まった。
うわぁ・・。
たかだか数年前にここで働き始めた私が、この歴史ある映画館の終焉に立ち会うのだ。
何だかとても感慨深い。。
こうなったら何としても一回は是非ここで映画を観なくては、、。
よくわからない使命感に駆られ、私はシフトの空き時間と上映時間を照らし合わせた。
もともとそんなに映画好きというわけでも無いので、タイミングよく観たいモノが空いている時間と重なるという事は滅多にない。
それでもしばらく待っていたら、興味ある映画が上映されはじめた。
喫茶店の仕事が終わってからだいぶ間があるけど、コレを逃したらもう観ることが叶わないような気がした。
よし、コレを観ることにしよう。
「あの~店長、この映画観たいんですけど。。」
店長の許可をもらい、いざ初めての職場のシネマ鑑賞。
その日最後のプログラムは他に客が一人も居なく、私だけ。
思う存分浸る事が出来る。
上映開始。
内容はとある富豪のご婦人へレーネがゴッホの才能をみとめ、彼が残した絵画を集め美術館を建設するというドキュメントだった。
残されたゴッホと彼の弟への手紙を交えながらその足跡を追っていく。
ゴッホを題材にした映画や舞台はいくつか観てきたけど、これは事実を淡々と絵画とともに紹介していくシンプルなものだった。
「終わったら電源全部落として閉めてきてね。」
、と言う店長の指示通り、見終わった後、一通りの作業を終わらせた。
あと、何回ここで鑑賞出来るのか。
とりあえず最低の自分に課したノルマは達成した。
閉鎖を間近に控えた古い映画館。
そしてそこで鑑賞した最初で最後になるかもしれない、ゴッホの生涯を記録した映画。
派手な映画より記憶に残りそうだ。何となくだけど、、。
ちなみにゴッホは、自分が生きて居る間に売れた絵はたった一枚きりだったそうだ。