ある日、古い友人、、と言うより幼なじみから突然会おうという連絡が来た。
彼女とはもう何年も会っていない。
招待された結婚式以来か。
まだ子供が出来たという報告はなかったので、もしかするとそうなのかなと思っていたら、
やはり妊娠している、と会った途端話し出した。
「よかったじゃない、おめでとう。」、と私はおきまりの祝福の言葉を伝えた。
「うん、、ありがとう。」
彼女にとって待望の、第一子懐妊の報告の割にはなんだか顔色がさえない。
「どうしたの?なんだか不安そうだけど。マタニティブルーってやつ?」
冗談を言っても乗ってこない。何かを言おうかどうしようか迷っているようにも見える。
とりとめのない話がしばらく続いたあと、意を決したような突然の彼女の告白があった。
「ねえ驚かないでね、私のお腹の子の父親、主人じゃないの。」
「!」
驚くなって言われても・・・そりゃ驚くでしょ。
あまりの事に私はしばらく言葉を失った。
「じゃ、じゃあ誰の、、?」 アワアワとなっている私はやっと言葉を絞り出した。
「すごーく良い人なの。」
そんな事きいているんじゃ無い、何処の誰だよそいつは。良い人が人妻を妊娠させるものか。
彼女が言うには、どうも職場の関係の人らしい。
相手にも妻子がいる、いわゆるダブル不倫というヤツだ。
どうしてそうなったかなんて野暮な事を問いただしても仕方がない。
男女の関係なんて他人が安易に口を出すモノでは無いだろう。
大事なのはこれからだ。
「それで、どうするの?」
どうしたらいい、なんて聞かないでよ。ああそんな話は聞きたくはなかった。
ドラマの中の話だけかと思っていたのに、私がアドバイス出来る内容じゃないよ。
「彼は自分の子供が成人するまで待ってくれって言っているの。」
は、何それ。あと何年あるか知らないけど、それまで自分の子供を人に育てて貰おうって事?
私は急に怒りがこみげてきた。
「その時がきたらお互いの相手と別れて結婚しようって言われたの?」
彼女は黙っている。
いけない、、知らず知らずに私の口調がきつくなっていたのか。
彼女に私に話した事を後悔させてはいけない。
とりあえず彼女は堕胎の意思はないという。いばらの道を行くのか。
それだけ好きになってしまったんだね。
私は何も言えずに彼女と別れた。
きっと苦しんでいるのだろう。誰かに吐き出してしまわなければいられないほどに。
それからしばらく彼女に会うことはなかった。
あれからどうしただろうか、もう生まれてもおかしくないくらい時間がたっている。
こちらから連絡するのがなんだか怖い。
告白されたことで、なんだか私自身もその秘め事に加担しているような気分になっていた。
忙しさに紛れてそんなことも忘れかけていたある日、また彼女が会いたいと言ってきた。
あれからどうなったのか。。
ドキドキしながら話をきくと、けっきょく彼女の子、いわゆる不義の子は死産だったそうだ。
へその緒がくびれ、栄養がいかないうえ首に巻き付いていたという。
「かわいそうだったね。」と言うしか無い。
「不思議なんだけど、生まれた子、主人に似ていたのよ。」
「え、それじゃ本当にご主人の子だったんじゃないの?」
「ううん、それは絶対に無い。私には解る。」
彼女がそこまで言うのならそうなんだろう。
でも、じゃあ何故子供は旦那さんに似ていたのか。。
私は勝手に、生まれる前に亡くなったその子の気持ちを妄想した。
「ママ、ゴメンね。僕が生まれる事で沢山の人が困ったり、傷ついたりするのが嫌なんだ。
ママの子として生まれて人生を楽しみたかったけど、やっぱり辞めておくよ。
きっとまた会えると思う。
僕の弟か妹が生まれたら、可愛がってやってね。
それじゃ元気で。さようなら。」
彼女はその後旦那さんとの間に2人の子をもうけ、家庭円満に暮らしているようだ。
亡くなったあの子が旦那さんに似ていたのは、最初で最後の親孝行だったのかな、
何年もたった今ではそんなふうに思ったりもしている。