ピンは落ち着いてきた。
立てなくなると
立とうとして何度もバタバタして
ほとんど寝ようとしないのだが
昨日今日とよく寝てくれるように
なった。
「こないだと顔が
全然ちゃう。
男としての自信取り戻した顔に
なってるわ」と
クマオがピンのことを言う。
その「男として」の意味が
よくわからないが
確かに
立てなくて
歩けなくなっていた時の
ピンの顔は悲しそうだ。
夜中に電気をつけると
ピンの顔に黒く棒状に目やにが
2本ついていた。
普段はあまり目やにがつくことは
ないので
何だか涙のようで
ピンは泣いているのかと
その時は本当に辛かった。
今日、リフォーム業者の
担当者の方が補助金の申請用紙を
持って来られた。
その方も犬を飼っておられ
お子様がいらっしゃらないからか
もう実の子供のように可愛がって
おられる様子を度々話してくださって
いた。
来られるたびにピンにと
おやつを持参してくださり、
「がんばりよー」と撫でて
くださっていた。
今日もそんな感じだったのだが
突然崩れ落ちるように
泣きだされた。
何事かと驚いている私に
「すみません。
うちの子亡くなったんです」と
とても辛そうに話してくださった。
「え?
ピンよりはまだお若かった
ですよね?」
「はい、
急にしこりが見つかって…
手術したその翌日に急変して
……」
言葉が出なかった。
大の大人の男性がこんなふうに
仕事中に涙を流される。
それほどに愛犬の死は悲しみが
深いのだ。
「お客様のところで
ワンコを見るともうこうなって
しまって…」
頷くことしかできなかった。
……………
その時は刻一刻と近づいている。
もちろん
散歩がめんどくさいと思う日も
あるし、
長期の旅行にも行けないやんと
思う日だってある。
だけど
それとこれとは
また話が違うんだな。
脚腰が弱って
ごはん中もふらつくピンに
どこかのバザーで購入した
踏み台がちょうどいい腰掛けに
なった。