土曜日のことを考えると、拗ねたくなるような気持ちにもなったが、
そんなことをしても、何の得にもならない。
今、いっしょに過ごせる喜びを、全身全霊で表し、伝えよう。
何より、そうすることがクマオを喜ばせることになり、
そして、そのクマオの喜びは私にかえってくるのだから。
日曜日と月曜日の連休は、クマオと楽しく過ごす。
いつのように洋服を見て、食べログでチェックしたお店に足を運び、映画も観る。
観た映画は「イェスタディ」。
終わって席を立つ時、私はクマオに小声で言う。
「私、泣いた」。
クマオはクスッと笑って、私の頭をポンポンしながら、
「オレもちょっとな」。
こういう瞬間がほんとに楽しいのだ。
以前、クマオに彼女と映画を観たことがあるかどうか尋ねたことがある。
クマオは「ないよ」と言った。
嘘かもしれないが、私は何故か「やっぱり」と納得した。
クマオの女が、映画を好んで観るようなそんなタイプにはどうしても思えなかったからだ。
それでも、クマオがまだまだ女とお花畑にいた頃、
いっしょに食事に出かけることはあっても、映画を観ようとは誘えなかった。
クマオと何かをするということは、彼女にだけ許されている特権だと思っていたのだ。
それが、以前のように、またクマオと映画を観るようになったのは、
今年になってからのことだ。
当時話題になっていたクィーンの「ボヘミアンラプソディー」、これはぜひ観ておきたい。
一人で行こうか、それとも他の誰かを誘おうか。
そう思いながらも、私がいっしょに観たいのはやっぱりクマオ。
「クマオさん、ボヘミアンラプソディー観た?」
私は恐る恐るそう尋ねたことを覚えている。
「観てないよ。まだやってる?」
「うん」
「じゃあ、予約しとくよ」
「ありがとう!嬉しい」。
確かこんなやり取りをした。
それ以降、クマオとは月に1本ペースで映画を観ている。
クマオが女とは行かない映画館という場所に足を運ぶ時だけが、
クマオの女の影が消える、私にとってはそんな時間でもあったのだ。
スクリーンを出て、ふとスマホを見ると、ラインメッセージの通知。
開くと、公式でお友達登録しているクマオの女のサロンからだった。
「13日から23日まで、スタッフ研修のため、営業時間を変更します」という内容。
やっぱり。私の推測は当たった。女は研修だ。
クマオに尋ねる。
「クマオさん、彼女のサロンのライン見た。
彼女、どこに研修に行ってるの?ハワイ?」。
クマオはギョッとした顔をするも、
「タイ。タイ古式マッサージの短期研修」と低い声で言う。
「タイ?へ~。すごいなぁ」
「さあ・・そんなふうにキャリアアップしないと生きていかれへんからやろ・・・」。
クマオはどこか吐き捨てるように言った。