抱きしめられた私はドキッとする。
その瞬間、クマオの女に勝った気がする。今あんたの彼氏、元カノに心許してるよ。
私の意地悪な心はそう叫ぶ。セックスなんてしなくても、私はこれで満足する。
要するに私はクマオの心だけがほしいのかもしれない。女に勝ちたいだけなのかも
しれない。そんな気さえしてくる。
夕方近くになるといかにも台風が接近している空模様になってきた。
クマオと私は買い物をすませ、DVDを1本買って家に戻った。
早い時間から飲みながらDVD鑑賞。そして夕飯。
外は台風の風雨が激しい。一人なら怖くてたまらなかったが、今は隣にクマオがいる。
私は安心していた。唯一気になることと言えば、クマオがスマフォを手元に置いていること。
そんなに頻繁ではないが、確実にチェックしている。
やっぱり。ちょっと悲しくなるが、女はクマオがまさか元カノの所にいるとは思っていないはず。
女を欺いていること自体が、その時の私には心地よかった。
9時半ごろになると、外は静かになった。台風は無事通り過ぎたようだ。
クマオは何となく帰り支度を始めている。
「帰るの?」「うん、明日早いからね」
「わかった。今日はありがとう。おかげで台風が怖くなかったよ」。
私はそう言ってクマオとハグして別れる。
クマオが玄関から出て行った後、ふと私は思った。
クマオはこのまままっすぐ本当に自宅に帰るのだろうか。