2022年10月10日

 

 

「決して振り向いてはいけません」

 

 世界の昔話を読むと、古今東西のストーリーで、この「決して振り向いては

いけません」という文言があったなと思い出されます。

 

 そこで、ギリシャ神話と日本の日本書紀を見てみたいと思います。

 

1.オルペウスとエウリディケの悲劇

 

  まずは、ギリシャ神話です。ギリシャ神話とは、紀元前15世紀ころ 

 口承形式で伝えられ、紀元前9世紀にホメロスの「イーリアス」と「オデュ

 セイア」に集大成として記録されました。

 

  多くの話がありますが、その中で、オルペウスとエウリディケの悲劇の

 話があります。

 

  オルペウスは、太陽神アポロンの息子といわれており、ギリシャ一の竪琴

 の名手として有名でした。彼の美しい琴の音を聞くと、ライオンも猫のよう

 におとなしくなり、川の水さえも、その流れを止めると言われました。

 

  彼は、ニンフ(自然界に宿る女性の精霊)であった妻エウリディケと

 愛し合い,幸せに暮らしていましたが、あるときエウリディケは、野原で

 花を摘んでいるときに、毒蛇に噛まれて死んでしまいます。

 

  嘆き悲しんだオルペウスは、妻が忘れられず、愛する妻を取り戻すため

 に冥界に下ることを決意します。

 

  多くの困難に直面しながらも、彼の弾く竪琴の音に、冥界への渡し守や、

 3つの蛇の首をもつ番犬のヶルペウスも魅了され、涙を流し、彼を通します。

 

 

   オルペウスは、遂に冥界の王ハデスと妃ペルセポネの面前に立ち、妻を

 返してほしいと懇願しました。

 

  ハデスは拒絶しますが、オルペウスは竪琴の美しい音色を奏で、

 妃ペルセポネによるハデスへの説得もあり、遂にはエウリディケを地上に

 返すことの了承を得ることに成功します。

 

  彼はエウリディケを返すことを許しますが、唯一「冥界を出るまでの間は、

 決して後ろを振り返ってはいけない」との条件を付けました。

 

  オルペウスは、喜び勇んで、エウリディケを従え地上を目指して歩き続け

 ます。

 

 

 

  目の前に地上の光が僅かに見え、あともう少しで抜け出すというところ

 で、本当に付いてきているかと不安に駆られた彼は、後ろを振り帰って

 しまいます。

 

  そこには、悲しそうな顔をしたエウリディケがいましたが、そのまま

 彼女の姿は消え、冥界へと連れ戻されてしまいました。

 

  オルペウスは、激しく後悔し、妻を再び失った深い悲しみから、神を

 敬わなくなり、遂には神の使途により、八つ裂きにされ、その首は、琴と

 一緒に、川に投げ込まれてしまいます。

 

  海まで流れ出た首と彼の竪琴は、レスボス島に流れ着きます。島民は、

 その死を悼み、墓を築いて祀りました。

 

  そして、オルペウスの音楽の才能を惜しんだアポロンの父であるゼウスは、

 オルペウスの竪琴を空に上げ、「こと座」にしたという逸話が残されて

 います。

 

  前回お話した七夕に因んだ織姫を象徴する「ベガ」は、全天で5番目に

 明るい恒星として、こと座の中心の星です。

 

  このオルペウスとエウリディケの悲劇の物語は、19世紀のヨーロッパで、

 コロー、ウオーターハウスやギュスタフ・モロー等、多くの画家により

 描かれています。

 

  また、この悲劇をブラジルのリオに舞台を置き換え、若い男女の悲恋

 物語として、音楽と共に有名になった「黒いオルフェ」という映画も

 あります。 ……

 

    見てはいけないと言われている約束を破り、我慢できずに見てしまい、

 悲劇が起こる。

  極めて人間的ですね。駄目と言われると、つい見たくなるのが人情です。

 

   このような出来事の話が、世界の各地にあるといわれ、聖書の中にも

  見られます。

  更には、日本の神話の中にも登場します。

 

  でも不思議ですよね。ギリシャ神話の世界と日本の神話の世界。時代に

 して、2,000年もの開きがあり、地理的な距離にして、10,000kmも

 離れていて、直接交わった歴史は確認されていないのに、なぜ似通った

 話が展開していくのか。

 

  そこに大変興味が湧いたので、次回は、日本書紀から、イザナギと

 イザナミの話を見ていきたいと思っています。

 

  そして、なぜ世界で、似通った神話や伝説が残っているのかを考えて

 みたいと思います。では、また次回 不思議への旅へ!