2022年3月7日

 

 前回は、フェルメール展の「窓辺で手紙を読む女」に係る物語と隠され

キューピッドのお話をしました。

 

 今回は、現在、もう一つ公開中の「メトロポリタン美術館展」に関わる

お話をます。

 

 アメリカのニューヨーク・セントラル・パーク内にあるメトロポリタン

美術館は、1872年に「アメリカ国民のために美術の教育と振興を図る

こと」を目的として設立され、膨大な数の世界各地の美術品を蒐集し、

保管しています。

 

 今回の展示は、ルネッサンスから19世紀まで、西洋絵画史500年の

中から、選りすぐられた名画65点が展示され、うち46点は日本初

公開というものです。

 

 私の見たかった絵もたくさんあり、期待が高まります。

 

 まず、19世紀後半、フランスのアカデミズム絵画を主導した、

ジャン=レオン・ジェロームの《ピグマリオンとガラテア》です。

今回の冒頭の写真です。

 

 私のブログ中、2021年6月3日「ピグマリオンと京人形」でも

取り上げました。

遂にこの絵の本物に対面できると思うと楽しみです。

 

 実は、この絵の中、右上に、あたかも今、恋の矢を射ようと

するキューピッドが 描かれています。ギリシャ神話のキプロス

島の王ピグマリオンと自分が彫刻した女性像ガラテアのロマン

ティックな恋物語がモチーフです。

 

 自分が彫りだした女性像に恋をし、苦しむ日々のピグマリオン、

女神ヴィーナスに祈ったところ、願いが届き、キューピッドが

その使者になっています。

 

 ガラテアに命が吹き込まれ、まさに彫像が変身する瞬間が

描かれています。下半身は、まだ固く冷たい象牙ですが、

上半身からは、熱い想いから、キスをする二人の喜びの光景が

伝わってきます。

 

 もう少し、周りを見てみると、右側に口を開けた2体の仮面が

描かれています。

 フェルメールの「窓辺で手紙を読む女」でも見られたような

「仮面」が意図をもって登場しています。この場合には、ギリ

シャ悲劇と喜劇の仮面のように思われ、ギリシャ神話の題材で

ある「ピグマリオンとガラテア」とのつながりを象徴している

ようにも思えます。

 

 別の作品にも目を向けてみましょう。

日本初公開の作品で、イタリアンバロックの巨匠と言われる 

ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオが描いた

《音楽家たち》(1595年ころ)があります。

 

 4人の若者たちの音楽演奏の姿が自然体に描かれていて、

左からめ2人目の青年がリュートという琵琶に似た楽器を演奏し

ており、その右側で角笛を手にしている若者が、カラヴァッジオ

自身の自画像と言われています。

 また、一番右側で後ろ姿で読書をしている若者がいます。

 

 このような音楽家を描くモチーフは、教会が援助したことも

あり、当時人気があったようです。

 

 但し、本作の一番左には、ブドウの房に手を伸ばそうとして

いる若者が描かれていますが、上半身裸のキューピッドである

と思われ、やや暗いですが、背中の翼が確認されます。

 

 このことから、単に音楽の合奏の情景ということではなく、

「音楽」「愛」の寓意がテーマではないかと言われている

ようです。

 

 もう一つ取り上げると、17世紀フランスで、ルイ13世の

国王付き画家であったジョルジュ・ド・ラ・トゥールの

《女占い師》という作品があります。これも日本初公開です。

(下のポスター写真)

 

 ひとりの若者が、占い師の老婆や周りの女性たちから、

財布や宝飾品を盗み取られる場面が描かれており、派手な

衣装や、各自の目線から、思わずクスッとしてしまいそう

な強烈な印象を残します。

 

 まだまだ、素晴らしい作品がたくさんありますが、

絵画に纏わるお話にも、関心を持つと、また愉しみが

拡がっていきます。