2021年3月6日

 

「花は生けると人になる」

これは、華道を世界的レベルの芸術に育てた、草月流初代家元 勅使河原蒼風

(てしがはらそうふう)の言葉です。

 

いけばなは、作品として完成したときから、生けたその人自身を映すということです。

花と向き合い、生けていく過程で、自分の性格も作品に反映されます。花を生ける

ことを通して自分が出る、それゆえに、自分を見つめることに気づき、更に自分を

深く知り、磨くことが華の道と説きました。

 

 蒼風は1928年、それまでの形式主体のいけばなの常識に挑戦し、誰でも自由に

表現できる創造の精神を確立しました。

 「いけばなは、生きている彫刻である」という蒼風の言葉も残っています。

 

 そして、海外でも人気を博し、1955年には、パリで個展を開催し、「花のピカソ」

と呼ばれ、仏のフィガロ誌から賞賛されました。

 

 日本での華道は、今でも習い事としての認識が大きいですが、海外では、絵画や

音楽を始め多くの芸術を、子供のころから家族一緒に日常の生活のなかで楽しむ

生活のスタイルが定着しています。

 

 音楽家、ミュージシャン、画家、デザイナ~、華道彫刻家、そして華道の作品を

生み出す人達等、世の中の多くの芸術を生み出す人達は、自分と向き合い、自分の

感性を高め、ほとばしるエネルギーを表現します。

 

そこから生まれる作品に触れる私たちは、作者が創造した目に見えるものと、作者

の心の叫びという目に見えないものを受け止め、感じ、楽しむことができます。

 

様々な分野の芸術に向き合う私たちには3つの気持ちが生まれます。

1.その作品から受ける美しさや心象を楽しむ

2.作者の想いに心を馳せ、その背景にある芸術性を楽しむ

3.1,2を通して、見つめている自分自身に気づくことを愉しむ

 

 3については、芸術を見たり楽しんだりする側の私たちも、視覚・聴覚だけで

なく、「こころで観る」ことにより、自分自身への気づきが生まれます。

 

 芸術とは、こころをつなぐメッセージということができます。

すなわち、生む出す人達と受け止める人達との「こころのふれあい」であり、

会話等の言葉を介さない「こころのコミュニケーション」と言えると思います。

 

 この双方向のコミュニケーションの広がりが、人々の気持ちを優しくし、文化

を形成します。

 

 最近の世界の著名な経営者の間で、経営にもアートの思考が需要であり、

「リベラルアーツ」を重視しようという声が広がっています。

 

直訳すると、大学の一般教養を高める教育の意味になりますが、実社会では、

世界的な政治・経済・金融の激変する時代にあって、更に新型コロナウイルス

のような世界的なパンデミックの広がりに向き合い、答えのない企業経営の

かじ取りを正しく決断していくためには、軸となる価値観を「人」に置くために、

芸術(アート)の発想を理解する感性を大事にしていこうとするものです。

 

 私たちを取り囲む環境も、ストレスフルな事象に日々直面しています。

コロナ禍の中ですが、一人ひとりが、自分の好きな芸術の分野をみつけ、心の

コミュニケーションを深めていければいいなと思います。

 

                              以 上