気象系の青さんの素人妄想BL小説です
side O
駅に向かう途中の交差点
僕の家からは
そう遠くないこの場所で
望んではいない
運命の歯車が進み始めた__
『…ハァッ… 先生ぇ……ハァァ…
…ハァァ…ハァッ…翔…先生ぇ…/////』
どうか…
この胸騒ぎが
僕の勘違いでありますように…
騒音の発生場所と思われる交差点が
目視出来る距離となり
縋るような気持ちで人集りへ向かった
『…ハァッ……ハァ…つッ//…見えなッ//…ハァ…』
辿り着いたのは人集りの最後尾
残念ながらその先の様子を
確認する事は出来ない
少し離れた場所なら…
周囲を見渡せば
交差点を渡った向かい側の通りは
それ程人は多くない…
人集りにより
機能しなくなりつつある交差点へ
信号が変わるのを待った
『…ハァァ…先生ぇ///…お願いッ//…ハァ…
違うって言って…///』
信号待ちの間も、この大勢の人の中に
あの背中があるのではないかと…
そんな願いを込めて目を凝らすが
見つかることはなく、
代わりに救急車とパトカーが到着した
早く様子を知りたいのにッ…//
なかなか変わらない信号に
少し苛立ちを覚えたその時だった
『……へッ⁈…ハァッ…なッ……んで…//』
交差点の向かい側で
行き交う人の隙間から…
つい数時間前まで一緒にいた
出来る事ならもう二度と会いたくない
恐ろしい姿を見つけた
『……ハァァ……先輩ッ…//』
以前、家まで送ってもらった時
“ こっち側は来たことない ”
そう話していたことを思い出す
それなら何故、
先輩はここにいるのだろう
まさか……
僕に会いに来た…とか?
『……ハァァッハァ…やッ…ハァ……だぁッ//』
怖いッ…
近づけば、
どんな酷い言葉を投げかけられるのか…
あの悪魔みたいな顔
もう二度と見たくはない
だけど…この胸騒ぎ……
先輩は何か知ってるかもしれない
信号が青に切り替わり
歩行者用の横断時の音が聞こえてきた
気持ちとは逆に震える身体へ
両手で拳をつくり
勢いよく振り下ろして両脚に喝をいれた
渡った先の先輩を気にしつつ
歩道を進みだし
時折り人集りの中心へ注視する
けれど行き交う人の波が邪魔をして
交差点内で様子を伺うことは出来ない
仕方がなくそのまま交差点を渡り終えて
恐ろしい存在へ
向かおうとした時だった…
『……つッ⁈//……ッ……ハッ…ハッ…』
鋭い視線がゆっくり動き
僕へ向けて突き刺してきた
気付かれたッ…//
でも…
何があったのか聞かないと!!
震える身体を無視して
歩み寄る脚に力を込めて踏み出した
正にその瞬間………
『ひッ⁈//…ぁッ…//』
こちらを向いたまま
奇妙に口角を上げ
悪魔のような笑みを浮かべると
足早にその場を去って行った
『…ハァァッ…ハッ……ッ…//…ハァ…』
今のは何⁈…//
動悸が激しくなり
胸元へ手を当て呼吸を整える
あの笑みが意味することは
何だったのか…
深く考えると…恐ろしいッ//
兎に角、先輩が去った今
僕に出来ることは
人集りの中心を確かめること
後ろへ向きを変えて真相を確かめた
『……な…んでッ//
…ハァッ…見えない…よッ//』
残念ながら…
見えるのは救急隊員の背中ばかりで
確認する事はできなかった
悔しがる間に…
救急車はサイレンを鳴らして
走り去って行った
結局、行き交う人々の会話から
“ 2~30代位の男性 ”
“ 突然の叫び声と共に、道路へ
転ぶように飛び出し車に跳ねられた ”
…と言う情報だけ得られた
先生ぇは…
まだ20代だぞって笑って話してた
ただの勘違いかもしれない
貰った連絡先へ
電話して確かめればいいんだ
“ なんだ、早いな♪ ” …なんて
笑って出てくれるに違いない…///
ジャージのポッケに手を突っ込み
手に触れたものを取り出し視線を落とす
『……違うよね?……ハァ…
お願い…ハァ…そうって言って?///』
人集りの無くなった現場周辺に歩み寄り
不安な気持ちと動悸だけが残る中で
ふと…道路脇の花壇へ視線を落とす
そこには…
一枚の紙切れが
花の間で忙しなく揺れていた
『……ぁッ……ハァッ……や……だぁ…//』
治るどころか更に強まる鼓動
震えの止まらない手は
花壇のそれと酷似したモノを
強く握り締めたまま…
力無く歩み寄った
『…ハッハァァッ…嘘でしょう?
落としちゃダメじゃん…先生ぇ//
自分が失くすなって言ったんでしょ?//』
誰からも気付かれる事のない
それを眺め…
滲む視界に耐えられなくなり瞼を閉じた
見間違える筈がないの……
だってそれは…
正真正銘、僕自身が綴った
漢字3文字の名前と自宅の電話番号と
一致しているのだから………
震える手で紙切れを掴み
自分が持ってたものと合わせたら
クシャクシャに握りつぶし、
ポケットに突っ込んだ
その後
どうやって帰宅したのか覚えていない
お母さんの声掛けにも
殆ど応じることが出来ずに
部屋着に着替え、早々にベッドへ潜り
ジャージを優しく抱きしめて眠った
。⁂。*゚*。⁂。*゚*。⁂ 。*゚*。⁂ 。*゚*。⁂。*゚*。⁂。
網戸の無い
無機質な大きな窓を開け放ち
バタバタと激しく揺れる
カーテンを横目に…
溜め息をひとつ吐き出せば
どこにも行き場のない想いを
空に浮かぶ流れゆく雲と一緒に見送った
相[…大ちゃん…//
先生が進路希望表早く出せって…]
『…んふふ……そだね♪』
相[……高校、どこ行くの?]
『……あの人が居ないところなら
どこでもいいかな?//』
相[……そう…//
じゃあ、俺と同じ高校にしない?
俺たち成績同じくらいでしょ?]
『…ふふふ♪………だね…』
あれから…
一年半もの時が過ぎた
先輩とはあの時以降、関わりを絶った
何度か声をかけられたけど
一度、防犯ブザーを鳴らして驚かせたし…
相葉ちゃんへ簡単に事情を話したら
休み時間も登下校も気にかけてくれたんだ
その内、卒業してそれっきり……
持ち主へ返し損ねた
ジャージとコートと手帳は
今も僕の部屋で時が止まったまま
お母さんが夜勤で居ない時だけ
ジャージを引っ張りだして
眠れない夜を一緒に過ごしている
行動さえ起こせば
直ぐに確認する手段はいくらでもあった
けれど
行動する勇気は持てなかった_
馬鹿だと思う?
でもね…
もしも電話をかけて
呼び出し音が鳴り響いたままだったら?
“ この電話は現在使われていません ”って
ガイドが流れたら?
もしも…
問い合わせた学校に居なかったら?
待ち伏せする事だって出来たのに
それをしなかったのは…
もしも……が
あの当時、本当に起こっていて…
あの悪魔の笑顔の意味が
“ もしも ”…に関係していたとしたら…
たとえ先生ぇを見つけても、
その要因は僕なんだ……
許されないよね?
『………翔……先生ぇ…///』
知ることが怖い__
もう一度、あの瞳に逢いたいのに…///
もしも逢えなかったら?
逢えても…
冷たい瞳に変わってたら?//
どうせ嫌われるのなら…
僕は意気地なしなままでいい
そんな気持ちを抱えたまま
月日だけが過ぎていった_
『……ただいま…//』
返事のないひとりぼっちの家で
手洗いと着替えを済ませると
部屋の電気を付けることなく
ジャージ片手にベッドへ潜り込む
『……んッ……ハァッ……ッ///』
悪魔に教わった感覚は……
2年と言う歳月と共に
自ら望むものへと変わっていた
心と体の繋がりは残酷で…
あれほど嫌悪感で溢れていた感覚は
先生ぇを想い扱う事で体は悦び
求める頻度は成長と共に増えていた
ただ虚しいのは
心は一方通行だってこと_
『…ハッ…ごめんなさいッ//…ハァハァァ…
こんな僕で…ハァッ…ごめッ…なさッ///』
そんな虚しい心でさえも
乳白色のモノを出す間際になれば……
『ああッ///…ッ…んっ…ハァァッ…
先生ぇ〜///…ハァッハァッ…ああッ///
はぁあんんッ!?/////…ふぅ…ぅ…///』
それまでの感情を真っ黒に染め
手を白く汚した…
『……ハァ……ハァッ…』
空っぽになった身体と心へ
夜風に当たり頭を冷やそうと
ベッドから這い出て
足先をそっと床に下ろした
パサッ…
『………あッ…//』
あれ以来
全てにおいてやる気のない僕へ
親友の相葉ちゃんが
お節介で取り寄せてくれた
高校パンフレットが数冊散らばった
心はあの時から止まったままなのに
時計の針は1秒たりとも
僕を待ってはくれない……
受験だって…
未だに未来と向き合えなくて
完全に放置していた
でも……
『……私立高校は…//』
お母さんに負担をかけるから
行くなら公立だよね?
こうやって…
現実的な話になると
途端に “ お母さんを困らせたくない ”と
お母さんの存在が全てだった頃
大切にしていた感情が姿を現す…
『……要らない… よね?』
相葉ちゃんには悪いけど
私立高校に行く選択肢はない
散らばった冊子の中から
私立高校のパンフレットだけ手に取り
ゴミ箱へ運んだ
バサガサガサッ…
『………ごめんね…//』
その場から反転して
部屋を出ようとした時だった_
今は背中を向けているゴミ箱へ
意識を集中させて数秒停止する_
『…まっ……てッ/////…ハァッ…嘘ッ///』
全身に鳥肌が立ち
瞳の奥から熱が湧き上がってくる
ガコッ//
ガシャガシャッ……
倒れたゴミ箱から
捨てたばかりの高校のパンフレットを
一冊だけ手に取ると…
勢いで破れそうな程
何ページも何ページも乱暴に捲った
そして捉えた小さな一コマに…
『……嘘ッ///…ハァァッ…なんでぇ〜///
何で…高校の先生なのぉッ///…ハァッ…
…脚……僕のせい?…ハァハァッ…
ごめんねッ//…許してッ//
……ごめんね翔先生ぇ〜///』
ぽたッ…
嬉しさと
ぽたぽたッ…
罪の念が入り混じった複雑な感情が
この一年半もの間、
想い続けてきた人が車椅子姿で写る
冊子を目掛けて透明に濡らした
ぽたッ… ぽとッ……
それからは、がむしゃらだった_
相葉ちゃんと猛勉強を始め
お母さんと進路について話し合った
車椅子やそれに関連する情報も得て
お母さんの職場の病院で
実際の物を使わせてもらった
そんな中3の春のこと__
引き出しに入れたままの
あの時の手帳とメモ紙を取り出し
借りたままのコートを着て家を出た
あの瞳に逢って
ありがとうも
ごめんなさいも…
全部全部
僕の気持ちを伝えるんだ…//
お母さんが夜勤で居ない日は
メモ紙に書かれた住所まで行き
いつまでも待ち続けた…
団地周辺は花壇が設置され
春の訪れと共に
風に乗っては甘い香りが鼻を掠める
『……スーーー……ハァァ…
…ふふ……先生ぇみたいな香り///』
陽が暮れて、辺りが暗くなると
一際、強い香を放つ花の前が
僕のお気に入り
あの時、感じた
優しい香りにとても似ているから…
『……ジャスミンって言うんだ///
ふふふ…全然、イメージ違うけど///』
花の名前を書き記したプレートを見つけ
そんな擽ったい気持ちで眺め
暫くした時だった…
「クソッ!!…何だよあいつッ//」
『……ッ…!?///』
聞き間違える筈のない
あの時の声を背に受けて…
一瞬で胸が熱くなる
遂にこの時が来たんだと
トレンチコートの胸元を軽く掴み
声が聞こえた方へ振り返る…
『…あのッ…///』
「あああ〜〜ッ!!
クソッ!!クソッ!!」
ガザガザッ…
ぷしゅッ
「…んっ…んくッ……んんッ…
ぷはぁあああッ…クソッ//
何が、もう無理!…だよッ//
今まで散々せがんできておいて
沢山相手してやったのにッ//…!?」
『………あのッ…//』
すごい勢いでお酒を飲み出し
悪態つく姿に、
声をかけるタイミングを
失敗したと思いつつ…
目の前にいる瞳へ
恐る恐る声をかけた
漸く繋がった視線__
ずっとこの時が来るのを
待ち侘びていた筈なのに…//
「………何?//」
『…ぁッ//……えとッ//』
「ジロジロ見てんじゃね〜ぞ!
ガキはさっさと家に帰れ……」
光を失った瞳は……
僕を捉えても気がつくことはなく
大きな車輪を進めて目の前を過ぎていく
「…クソッ!!
何もかもこの脚のせいでッ//」
『…………//…』
2年前__
僕の胸をそッ…とノックしてくれた
優しい拳は……
今は車椅子に乗った自身の脚へ
何度も急降下しては
激しい衝撃を与えている…
『……ッ///』
覇気のない背中に胸が苦しくて…
涙が止まらなかった
翔先生ぇの力になりたい…//
でも今の僕では
あの瞳を救う事はできない
あの時
僕のことを救ってくれた優しい背中へ
今度は僕が
優しさを届ける番なんだ……
僕を見ても
思い出してもらえなかったなら…
全く別の僕として
もう一度翔先生ぇと出逢うんだ__
嫌な思い出は……その後でいい…//
それが正しいことなのかどうか…
正直分からない
でも、先ずは…
先生ぇの瞳の熱を取り戻すことが
大切だと思うから…
それが、僕の出来る償いであり
唯一想いを実らせることができる
手立てだと信じてるからッ///
…翔先生ぇ?
僕が出来ることは
どんなことでもするよッ///
優しさってね…
嘘から始まることも
あるんだよ…///
つづく・‥…─*
智くんの過去編
読み進めて下さった皆さま♡
有り難うございました。
話もかなり端折ることになり
智くんの中学3年分を詰め込んだので…
智くんの決意の想い…
皆さまへ伝えきれたのか…少し不安です…
さぁ、次は…
愛する智くんが学生だと知った
翔先生ぇのところに帰りましょう♡
2人の関係はどうなるのか……
後半も宜しくお願い致します♡
La mimosa