ガタタンゴトンッ…
ガタタンゴトンッ…
自宅の最寄駅から
電車に揺られて約30分
駅を出て、川沿いに隣接する
大きな公園を突き抜けて行った先に
僕たちが向かう目的地がある
中学生の僕にとっては通い慣れた場所であり
当たり前の道のりだけど…
「さとにぃちゃん!
こっちです!!」
『さとち!遅いぞッ!』
(んふふ♪慌てなくても大丈夫だよ〜)
普段は父さんが車で連れて来てくれるから
まだ駅から歩いて行ったのは
ほんの数えるほどしかないのに…
先を行く2つの小さな背中は
道に迷う事なく歩みを進める_
「さとにぃちゃん!ありました!!」
『早くはちって!はちってこい!!』
(もぉ〜潤ってばぁ〜♪)
程なくして到着したのは
ヘリポートも完備された大きな建物__
ここに今日…
いや、いつだって…
僕らが一番
逢いたいと思っている人が居るんだ
建物内に入り、受付を済ませれば…
いつものエレベーターに乗る
「潤…お部屋では静かにするですよ!」
『翔こそ、窓からの眺めが高いからって
いつもみたいに泣くなよなッ!!』
「僕、いつも泣いてないですよ!!
潤こそ騒ぎすぎないで下さいね!」
(はぁーーい!
そこまでぇ〜!!)
ティンッ…
2人の間に割って入れば
タイミングよく目的の階へ到着した
『翔ッ!さとち!!こっちこっちぃ〜♪』
一目散にエレベーターを飛び出した潤が
目的の場所へ向かい走り出した
「潤ッ!!はちっちゃダメですよ!」
そう言いながら、潤の後を追い、
走り出した翔の背中を見つけて…
(2人とも!!歩きますよぉ〜♪)
僕も逸る気持ちが抑えられず…
いつもより早歩きになってしまうんだ
ガラガラガラ…
「『 ママぁ♡ 』」
[あらぁ〜翔に潤!
来てくれたのねぇ〜お兄ちゃんは?]
そんな会話を
ゆっくりスライドして締まってゆく扉に
手を掛けながら聞いて…
部屋の中に入るのは毎年のこと
[んふふ♪おはよう!
元気そうね♪…智…///]
先に入っていった
翔と潤を両腕で抱きしめ
僕にだけの優しい笑顔の皺をつくり
微笑んでくれる…
当たり前の存在だけど…
…当たり前に毎日逢えない人が
ベッドに腰掛け迎え入れてくれた__
(ふふ♪…潤たち…
やっぱり今日も走ってたね♪
…おはよう…//………母さん///)
自分が休むベッドの所へ
僕が辿り着くまで…
その笑顔の皺は消えることはなく
僕を見つめる__
[ふふふ♪来てくれるかなぁ〜って…
実は…待ってたわ♡]
(……ん…///)
「……さとにぃちゃん?
ママに…渡さないですか?///」
『さとちッ!!早く出してッ!
かーねーちょん♪』
(あッ!?…そうだったね!)
翔と潤から促され、
袋から優しくそっと…取り出した…
「『 ママぁ大しゅきぃ〜♡ 』」
(母さん、いつもありがとう///)
2人の可愛い声に掻き消された
僕の気持ちも…
[ふふふ♡ありがとう!
…潤、翔……智/////]
優しく瞳を揺らし
笑顔の皺の流れに沿って
頬を伝って行くモノと共に受け取ってくれる
あたたかい人
(……ふふ…ぅん♪///)
そんな母さんを見て
貰い泣きしちゃう僕って…
たぶん母さん似…なんだと思う__/////
「ママぁ!
このお花さんは僕が選びました♪
ママの好きなピンク色です…///」
腕の中から母さんを見つめ、
口をムニムニさせて
自分が選んだお花の事を伝える翔__
すかさず…
『ママママママママ!
ねぇママぁ!
聞いて聞いて!あのね!
この花!
この花は潤が選んだんだッ!!
怪獣みたいに格好いいんだッ!!!
ガオォーーー!!!』
翔に負けじと、一生懸命
唾を飛ばしながら母さんに伝える潤は
相変わらずの怪獣っぷりが可愛いくて
母さんと2人視線を交わして笑った__
[翔も潤もありがとう!
ママとっても嬉しいわぁ〜♡♡♡
もぅ大好きのちゅッちゅしちゃおう♪]
「『 キャ〜♡♡ 』」
母さんが2人を抱きしめ、
頬やおでこに沢山の愛を捧ぐのを
見届けていると…
[…それじゃ〜このお花が智からね♡
とっても素敵…/////
ありがとう!…ほらッ♪智♡]
それまで2人を抱きしめ続けていた腕が
優しく2人の背中を離れ…
僕を目掛けて腕を開いたから
正直、焦った__
(えぇッ!?…僕はいいよッ…//)
だって…
あの腕に捕まったら何をされるかなんて…
毎年の事だから……
恥ずかしすぎて行けないでしょッ///
[……智♡…ほらッ♪]
(…だッ…だって僕はもう…
2人みたいに子供じゃないしッ/////
そんな恥ずかしいことッ///)
2人が僕を見て
キョトンとしている…///
(あ!そうそう!
後ね、2人が母さんに手紙を書いててッ…)
[智♡…ほらッ♪///]
話題を変えて誤魔化そうとした
僕の計画は見事、破られ…//…
逃げることは通用しないのだと…
笑顔の皺を寄せて微笑みかけてくる
あたたかな腕の中へ__
結局、今年も…向かってしまった
『 僕ももう一回ぎゅぅってしてぇ〜 』
「…ああッ!?ズルいですよ潤!
ママぁ〜さとにぃちゃん!
僕も入れて下さいッ!!」
[ふふ♡皆んな大きくなったわね///
逢いに来てくれてありがとうね♪
母さん…世界一幸せだわ♪]
(……大袈裟だよッ///
それに、何も抱きしめなくても…//)
恥ずかしすぎる…///
[ふふふ♡…大袈裟じゃないの♪
あなた達はいつまで経っても…
母さんの子どもなんだから♡♡♡
いつまでもずっと抱きしめたいの♡
今年も叶って幸せだわぁ♪]
「ママぁ〜
僕もママのことずっとぎゅぅします!」
『潤もッ!ママママママママ?
潤も潤もッ!!抱っこする!!!』
[あぁ〜ん♡可愛い子達ねぇ〜
もう、もっとちゅうしちゃうぞ〜]
ちゅッ ちゅッ ちゅッ
ちゅぅ〜♡
「『 キャ〜♡』」
耳元で響く
3人の賑やかな音に恥ずかしくなる
(…///…そッ…そろそろ…離してッ///)
[んふふふ♪
智、母さんの代わりにありがとうね]
恥ずかしすぎて…
ちょっと怒って伝えたつもりだったのに
笑顔でお礼を言われちゃったら…
(…別に…///
…僕が好きでやってる事だから…)
[…ふふふ♪…そうだったわね♡]
(…ふふ♪…そうだよ/////)
膨らました頬は一瞬にして空気を抜かれ…
微笑むと言う事しか
解答は見つからなかった__
カーー…
カーーーー…
カー… カー…
地元の駅を降りて、
横断歩道を渡り終えれば
自宅近くの住宅街を並んで歩く
『ママ、喜んでくれたなッ!!』
「絵も渡せましたね♪…ママ…
じょうじゅって言ってくれましたね♪」
(…ふふふ…そうだね…///)
僕たちには…
当たり前の存在である母親が
直ぐ手の触れられるところにはいない
だから…
僕が少しでも、翔と潤の、
お母さんの代わりになってあげたいと思う
『なぁ、さとちッ!この前は…
僕と翔のこどもの日だっただろ?』
(ん〜?そうだねぇ〜♪)
「…今日はハハの日です♪」
(うん!母さん…
2人に逢えて嬉しそうだったね♪)
「…それがどうしたですか?」
翔の質問に、潤が少し考え…
俺たちを見て立ち止まった
『じゃあさッ!
兄ちゃんの日ってないの?』
(……へ?…)
『ママもパパも僕と翔の日もあるのに…
兄ちゃんの日はないの?』
「…潤、さとにぃちゃんも
僕たちと同じ子供の日ですよ!」
(…ふふふ、翔の言う通りだよ!
僕も母さんたちの子どもだから、
こどもの日でいいんだよ!)
『…でも、さとちはいつも
ご飯作って、飾り付けして…
パパと一緒にお祝いしてくれるじゃん!』
「…そうですね…さとにぃちゃんは…
いつもおめでとうって言ってますね
潤、よく気付きました!」
(そんなこと…//)
どう説明すれば良いのか
少し悩んでいると……
潤が辺りをキョロキョロ見渡し
急にしゃがみ込んだ…
(…潤?…どうしたの?大丈夫?)
「…!?…僕もッ!」
上から覗いて見たが
様子が見えず少し心配になった
…と、同時に、
翔は潤の真横でしゃがみ込むと
何かを、発見した感じで…
慌てて2人で何かをやり出した
(…2人とも〜そろそろ帰りますよぉ
…今日は昨日の残りのカレーで
焼きカレーにしよう♪)
こうなると、
2人を立ち上がらせるのは一苦労
適当に声を掛け、僕は空を見上げ…
頭の中は今夜の夕食の事で
いっぱいになる
暫くぼぉ〜っとしていると…
「さとにぃちゃん!」
『さとちッ!!!』
僕のことを呼ぶ声に
視線は空から一気に急降下して
足元の2人を探した__
「『 兄ちゃんの日
いつもありがと! 』」
そんな、唐突の掛け声と共に
小さなふたつの手から差し出されたのは
(…ふふふ…
2人からのプレゼントなの?///)
「『 うんッ! 』」
2人の頭みたいにふわふわ揺れる
たんぽぽの綿毛だった__
僕は2人にとっての母さんにはなれない
母さんは母さんなんだから、
当たり前…だよね…//
でも…2人にとっての
母さんみたいな兄ちゃんにはなれる
離れて過ごす母さんの元へ
“いつか家族揃って暮らせますように”
そんな願いを込めて…
空高く_
3人で一緒に
たんぽぽの綿毛を飛ばした__
fin