脚本「見えない星」 第4話 ブルームーン | 日尾昌之 masayuki hio

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週休4日のアウトサイダー

「見えない星」

 

あらすじ

アフターコロナ。

沖縄県久米島のペンション南十字星で働いている石原律(26)。

高校のピアノ部だった彼女は、ディナータイムでピアノを弾くのが日課だった。

彼女が、この島に来たのは、親友との約束を守るためだった。

そんな、ある日。ペンションに大阪北新地でクラブを経営いている真希が訪れる。

 

 

ここでの登場人物

 

石原律  (26)  

沖縄県久米島のペンションで働いていたが現在は大阪北新地のクラブでピアノを弾いている 

東京都出身

 

真希(本庄加奈子)(57) 

大阪北新地 クラブマキのママ 元銀座のホステス 東京都出身

 

紗和  (34)

大阪北新地 クラブマキのベテランホステス 兵庫県出身

 

マユ  (24)

大阪北新地 クラブマキのホステス 大阪府出身

 

ユイカ (23)

大阪北新地 クラブマキのホステス 大阪府出身

 

ケンタ (22)

大阪北新地 クラブマキのボーイ 兵庫県出身

 

酔った客 (60代)

 

福本鈴 (24) 謎の女

 

本庄咲(声) 

石原律の親友 律と高校のピアノ部に所属していた  東京都出身

 

 

 

41 北新地の街角(黄昏)

   煌めく街

   律 マウンテンバイクに乗って疾走している

 

42 クラブマキの控室(開店前)

    紗和 ソファーに座ってタバコを吸いながらスマホを見ている

    律(白のブラウス 黒のパンツ) 入って来る

   律  「(緊張して)お お疲れ様です(と ロッカーを開けてリュックを入れる)」

   紗和 「(スマホを見ながら)あんた 沖縄から来たんやて?」

   律  「あっ はい 久米島から」

   砂羽 「(スマホを見ながら)生まれたんも そこ?」

   律  「いえ・・・」

   紗和 「(スマホを見ながら)ママに聞いたけど お水は初めてなんやて」

   律  「はい・・・ 凄く 緊張してます」

   紗和 「(スマホを見ながら)別に緊張せんでも あんたは 得意のピアノ弾くだけやん」

   律  「それは そうですけど・・・」

   紗和 「(スマホを見ながら)それに比べてら うちらは 大変 しとうもないこんな厚化粧し

       て 着とうもない服着て 飲みとうもない酒飲んで 話とうもない客の相手せんとあか

       んねんからな みんな 苦手なことばっかりや」

   律  「苦手なんですか?」

   紗和 「(スマホを見ながら 笑みを浮かべて)それに まだ ウイルス どこにおるかわから

       へんしな」

   律  「ワクチンは打たれてます?」

   紗和 「(スマホを見ながら 首を横に振って)持病があるし 打ってない」

   律  「そうですか・・・(と リュックから黒い上着をを出して羽織る)」

   紗和 「(スマホを見ながら)そやから うちにとって この商売は 命がけや まあ 他に 

       取り柄もないし 文句 ゆうたら バチ当たるわな」

   律  「・・・」

   紗和 「(律を見て) その服 ちょっと 地味ちゃう?」

   律  「(自分の服を見て)そ そうですか? 適当なの これしかなくって・・・」

   紗和 「何か 子供の参観日に行くみたい」

   律  「参観日・・・」

   砂羽 「明日 心斎橋で似合いそうな服こうて来たげるわ」

   律  「あ ありがとうございます・・・」

   砂羽 「サイズ 9号ぐらい?」

   律  「はい・・・ あー 13号でお願いします」

   紗和 「見た目よりえらいでかいんやな(と タバコを灰皿でもみ消してスマホをポーチに

       入れて テーブルの上の消毒液をソファーと灰皿にふり掛けて立ち上がり ドアに向

       かう)」

   律  「(小声で)でかくて ごめんなさい・・・」

   紗和 「(ドアの前で)何か わからんことあったら 怖がらんと 何でも聞いてな(と ドアを

       開けて出て行く)」

    律 頭を下げる

    と ドアの向こうから マユとユイカの声がする

   マユ ユイカ(声)「おはようございます!」

    と マユ ユイカ ぺちゃくちゃと話をしながら入って来る

   律 「(マユとユイカに)おはようございます」

   マユ ユイカ「おはようございます」

   マユ 「(律を見て) 今日 参観日の帰りですかぁー?」

   律  「えっ!?」

 

43 クラブマキのフロア

    客 ホステス達 小声で談笑している

    テーブルの上には 小型の空気清浄機と消毒液が置かれている

    ケンタ 布巾と消毒液を持ってあちらこちらを消毒してる

    律 登場してピアノの前で一礼する

    真希 客と談笑しながら律を見ている

    律 ピアノに着いて弾く

    ピアノの音がフロアに流れる

    と ガヤガヤと中年の団体客が 入って来る

   紗和 「(小声で)いらっしゃいませ(と 出迎えて) 皆さん 入口で検温と手の消毒して

       頂けました?」

   客達 「はーい!」

   紗和 「(横に居たケンタに)大丈夫?」

   ケンタ「はい 大丈夫です」

   紗和 「後 ワクチン 打たれた方は 手―挙げて!」

   酔った客達 「(手を挙げて)はーい!」

   紗和 「それから 風邪気味の方がおられましたら マスク お渡しますから」

   酔った客 「(大声で)紗和ちゃん お久しぶり!」

    と 軽やかなメロディーが流れる ピポピンピポピンポロン~

    律 そのメロディーに負けない様に 集中してピアノを弾く

   酔った客 「(大声で)風呂 沸いたでー」

   紗和 「(指を口に当てて)シー!」

   酔った客 「シーってなんや?」

   紗和 「(小声で)このお店 大きな声出したら お風呂が沸くようになったんです」

   酔った客 「なんでや?」

   紗和 「(小声で)これも 感染対策」

   酔った客 「(大声で)そうかいな えらい世の中になったもんやなぁー」

   紗和 「(指を口に当てて)シー!」

    酔った客 頭を下げる

   紗和 「で ワクチンは?」

   酔った客 「(小声で)覚えてへん・・・」

   紗和 「はい マスク!(と マスクを渡す)」

    律 集中してピアノを弾いている

    

44 クラブマキの控室

    律 帰る準備をしている

    真希 入って来て

   真希 「緊張したでしょう?」

   律  「あっ はい・・・」

   真希 「別に間違えても 見ての通り 誰もわからりゃしないんだから 気楽にね」

   律  「ありがとうございます」 

   真希 「はい 今日の分 お疲れ様!(と 律に茶封筒を差し出す)」

   律  「ありがとうございます!(と 茶封筒を受け取る)」

   真希 「それと 名刺も出来て来たから はい!(と 律に名刺の束を渡す)」 

   律  「ありがとうございます!(と 名刺の束を受け取る)」 」

   真希 「でも 本当に日払いでよかったの? お店の決まりで手数料10パーセント引く事に

       なるけど」

   律  「あっ はい」

   真希 「そう・・・ アパートの事なら 心配しないでね」

   律  「えっ!?」

   真希 「礼金 敷金 それと 3ヶ月間のお家賃は 前払いしてあるから」

   律  「・・・」

   真希 「あそこを世話してくれた不動産屋の社長さん ここのお客さんだから 心配しないで 

       その代わり 景気が良くなったら もっと稼いで 返して頂戴ね!」

   律  「真希さん・・・ いや ママ どうして 私に そこまで?」

   真希 「(笑みを浮かべて)あなたのピアノが気に入っただけよ! だって 本職のピアニス

       トを雇ったら もっと お金がかかるじゃない!?」

   律 「でも・・・」

   真希 「あなたは そんな事 気にしなくって いいの!仕事が終わったら さっさと帰った! 

       帰った!」

   律 「(リュックを背負って)ありがとうございます!(と 深々とお辞儀をする)」

   真希 「それから 今日 何で あの曲 弾かなかったの?」

   律  「あの曲って?」

   真希 「ほら 久米島で弾いていた 題名の無い曲」

   律  「あれは・・・」

   真希 「また 聴きたいわ」

   律  「はい・・・ では お先に失礼します(と ドアノブに手を掛ける)」

   真希 「それと もう一つ」

   律  「(振り返って)はい?」

   真希 「今日 着てた服 ちょっと地味じゃない? 何か 子供の参観日に行く見たい」

   律  「はぁ・・・(と 頭を下げる)」

 

45 大阪北新地(夜)

    煌めく街   

    律 マウンテンバイクに乗って疾走する

   咲(声)「僕は もう 長い間 外に出てないんだ 外は疫病が流行っていて ひ弱な僕は

        外に出たら  たちまち死んでしまうんだ でも ここに こもっていても 孤独と言う

        悪魔に魂を吸い取られて死んでしまうと思うけどね 死ぬ前に また 見たいな あ

        の海で見た青い月を おやすみ そこにいる誰かさん?」

 

46 大阪梅田の歩道橋の下

    律 マウンテンバイクに乗ってやって来て ふと 夜空を見上げる

    夜空に浮かぶ青い月

    律 歩道橋の下にマウンテンバイクを停めて階段を駆け上がる

 

47 大阪梅田の歩道橋の上

    律 階段を駆け上がって来て 息を切らして夜空を見上げる

    夜空に浮かぶ青い月

    律 笑顔になる

    と 律 ふと目を移と 鈴(後姿)が 手すりに寄りかかって夜の街を眺めている

 

    つづく