
過ぎてゆく
時を言葉で
残したし
この一瞬の
切なきことよ
去年の11月 会社の健康診断の結果
胃潰瘍の疑いと便潜血で 精密検査を受けることになった。
近くの総合病院に出向くと
同じ日に胃カメラと大腸の内視鏡検査ができるというので
先生の説明を聞き始めた。
すると「大腸は柔らかいので 万が一腸壁に傷がいくと
緊急手術ということになります。」
穏やかそうな女医さんの思いがけない一言に
気の小さい私は 顔面蒼白。
「すみません。
やっぱり胃カメラだけにします。」
と返事をして 逃げるように診察室を出た。
先生も怪訝そうな表情だったが
後で看護師さんが追いかけて来てくれ
「大丈夫ですよ。
心配はいりませんから ぜひ近い内に検査を受けて下さいね。」
と優しく言ってくれ 申し訳ない気持ちになった。
ただ 手術が怖いというのではなく
高齢の父のことを思えば
とりあえず夕飯は朝作っておくとくても 私が入院となると
頑固で融通が効かず わがままで
食べる物にもこだわりがあり
すべて柔らかく煮なければならない父の好みなど
ヘルパーさんに頼めるはずもなく
先生の言葉を聞いた瞬間に それらが一斉に頭の中を駆け巡り
冷静に考える余裕など まるでなかった。
その夜 看護師をしている長女に電話をすると
「もし本当に大腸に異常があって 手術や入院になったら
もっと大変な状況になるんだよ。
万が一の緊急手術なんて 確率は相当低いし
私の病院では聞いたことないよ。
それより何事も 早期発見 早期治療よ。」
と総合病院で働く10選手が 落ち着いた口調で話してくれ
やっと納得することができた。
「何なら 私が帰ってあげようか?!」
遠い県外に住み 子供を育てながら仕事をしている長女の
温かく頼もしい言葉に背中を押され
すぐに大腸検査の予約をした。
そして いよいよ当日。
朝8時から 前夜に作って冷蔵庫に入れておいた
2リットルの下剤を飲み始めた。
150ccの下剤を 10~15分かけて 少しずつ飲む。
同じことを2回続けて 今度は水150ccを同じ要領で飲んでいく。
それを5セット繰り返して
排泄液が濁りのない きれいなお茶のようにならなければ
さらに追加でという注意書きであった。
これがなかなか時間通りには進まず
トイレに15分座り込んでいると
次に飲む時間がずれ 飲むとまたトイレに駆け込んで行くという
何とも慌ただしい半日をようやく終え
検査開始の3時半。
覚悟を決めて まな板の上の鯉になった。
お腹の中で 得体の知れない物がうごめく痛みに
顔をしかめて目をつむっていたが
「奥まで届いたので これから丁寧に診ていきますね。」
先生の言葉に そっと目を開けると
大きいなモニターに
きれいなピンク色をした腸の中が映し出されており
自分の体でありながら 初めて目にする未知の世界が
とても愛しく感じられた。
その後 先生から異常のないことを聞き
結局 胃カメラの結果と合わせて
秋頃 座骨神経痛の痛みを抑えるために毎日飲んでいた
痛み止めが強過ぎて 胃腸に悪さをしたのだろうという
診断をいただいた。
「神様 ありがとうございました。」
心の中で そう呟いたら涙が出た。
たかが検査くらいでこの有様ゆえ
ガンや難病と闘っている人の気持ちを考えたら 申し訳ない限りだ。
健康診断の結果を手渡されて以降
毎日落ち着かない日々を過ごしていたが
やっとやっと 眠れる夜がやってきた。
そして おかげさまで無事
56才の誕生日を迎えることができた。
誕生日とは 愛する家族や大切な友達に感謝する日なのだと
今回の出来事は教えてくれた。
こうして 新年の十大ニュースの一つ目が
早々と記録されることとなった。