件の空き教室に着いた本間は、後方の扉を開けた。
人気のない教室は昇降口よりずっと、誰かの声が響く。
黒板の前に一人の少女が立っていた。
暇つぶしとして黒板に落書きしているようだ。酷く混沌とした落書き。
(何が目的なんだろうあの絵・・・)
彼女の精神が少し心配になった。何か悩みでもあるのだろうか。
思わず目を奪われたが本間の目的は落書きではないことに気づく。
先ほどの手紙の女だろう。本間は意を決して歩み寄ると、後ろから声をかけようと口を開いた。
しかし喉まで出掛かった声を押し込めたのは、彼のポケットから飛び出した緑色だった。
昨日の蛙。
本間は気の抜けたような、鼻に抜ける笑いの後で、「お前ここに居たのか」と足元のそれを目で追った。
蛙は小さく跳ねながら、教室の前方へ向かった。
「・・・俺に何か用?」
蛙を気に留めている場合ではなかったと仕切りなおし、目の前の女に声をかける。
静かに振り返る、彼女。
振り返った彼女を見て本間は言葉を失った。
夢で見た、あの少女だ。
銀色の髪、緑色の瞳、ウサギの耳にも似た大きなリボン。
ただ違うのは、本間と同じ制服を着ていることだけだった。
あの異質なそれが、今目の前に居る。
生涯会うことも無いと思っていたそれが、こうも簡単に。
まだ夢を見ているのか、と本間は思った。こんな現実あるはずがない。
目が覚めればまた学校へ向かって、ショウとくだらない話で1日を終える、そんな生活が待っているはずだ。
そう思ったときだった。
「えるもあ!」
考えていた本間は突如下から響いた声に思わず後退った。
(・・・今の・・・・・・?蛙って喋る生き物だっけ・・・・いやそんなわけ・・・)
しかし声は確かに足元からのものだったし、勿論其処に居るのは蛙が1匹。
混乱が混乱を呼んで、考えがまとまらない。
そんな本間に彼女は静かに云った。
「ttを助けてくれてありがとう」