引き続きの小説
(彼視点)
彼女は、黙って話を聞く人だった。
相槌が多いわけでも、意見を強く言うわけでもない。
でも否定もしない。
それが、彼には居心地がよかった。
一緒に出かけると、彼女はだいたい楽しそうにしている。
店も任せてくれるし、文句も言わない。
清潔感があるね、と言われたことがある。
そんなに褒められることでもないのに、
なぜか少し誇らしかった。
彼女は去らない。
それが、彼にはありがたい。
前の結婚では、
部屋のことでよく言われた。
散らかっていると言われ、
片付けようとすると、触るなと言われた。
どうすればよかったのか、今でもよくわからない。
お小遣いは二万円。 管理されていた、という感覚だけが残っている。
彼女は強かった。
だから、逃げたのだと思っている。
そう考えると、自分が悪かったことにはならない。
今の彼女は、違う。
何も管理しないし、何も決めつけない。
元妻の話をしても、
深く踏み込んではこない。
彼は、それを「理解してくれている」と思っている。
彼女が何を考えているのか、
本当のところは、知らない。
でも、今の関係に問題はないはずだ。
喧嘩もないし、別れ話も出ない。
このまま続くと思っている。
続いてほしいとも、思っている。
ただ、将来の話をすると、
少しだけ胸が重くなる。
彼はまだ気づいていない。
彼女が「考えている」ということを。
関係を、
自分よりずっと遠くから見ているということを。
今日も彼は、
次の週末の予定を考えている。
どこへ連れて行こうか。
それだけで、十分なはずだと信じながら。
彼女が隣にいる理由を、
彼はまだ、問い直していない。