半藤一利、磯田道史、鴨下信一他著「司馬遼太郎 リーダーの条件」 司馬遼太郎にゆかりの深い人による対談が大部分を占める本。 「これほど世間に影響を与えたのは幕末の頼山陽、戦前の徳富蘇峰以来」と若き歴史学者磯田道史氏(1970年生まれ)は言う。坂本竜馬や秋山兄弟を有名にし、乃木希典の評価を下げたことは多くの人の知るところである。 磯田氏はさらに「司馬本の愛読者が政治家に、無欲さとか無私といった資質ばかりを要求し始めたら危険な面もあります」と言う。そのとおりだと思う。 磯田道史氏を今後注目していきたい。
吉田裕著「アジア・太平洋戦争」 「あの戦争」のことをどう呼ぶかがまず問題となる。著者はいう。「当時使われていた『大東亜戦争』は、あまりにイデオロギー過剰な呼称であるし、現在一般的に使われている『太平洋戦争』も、日米戦争本位の呼称で、中国戦線や東南アジアの占領地の重要性が見失われてしまう可能性がある。」 どの言葉を使うかによってものの見え方がまったく違ってくる。余談だが、日清戦争のことを英語ではFirst Sino-Japanese Warという。小さき国が大国清に立ち向かっていったというイメージはFirst Sino-Japanese Warという言葉からは浮かんでこない。
加藤周一、ライシュ、リフトン著、矢島翠訳「日本人の死生観」 2年来の親友吉村光正氏が貸してくれた5冊のうちの2冊。乃木希典、森鷗外、中江兆民、河上肇、正宗白鳥、三島由紀夫という明治期から戦後に生きた日本人6人の生と死に対する態度を、イェール大学での講義を土台にまとめた本である。 乃木希典は、明治天皇の大葬の日に、静子夫人とともに切腹自殺を遂げた。西南戦争での軍旗を喪失し、旅順攻撃で多くの兵士を死なせた自責の念にかられ、日露戦争後に「軍神」に祭り上げられた男が選んだ道は、徳川幕府が250年前に禁じた「殉死」であった。