そこにいたのは・・・。
徳興君とキ・チョルその人である。
この二人こちらの世に
迷い込んでいた。
生前己の欲に負け
天界を夢見ウンスとヨンを長きに
渡り引き裂いたキ・チョル。
生前ヨンの手により
その欲を封じられ生涯を終えた
徳興君。
何ゆえ満面の笑みを浮かべ
ここにいるのであろうか・・・。
ウンス曰く「生を終えたんだから
もう悪いことは出来ないわよ」だ
そうである。
それでもヨンを始とするテマン
チュンソク、トクマン等は
警戒を怠ることはないのだが・・・。
そんな中
ソマンはこの二人を知らない。
されど二人の真意を探るには
後々ソマンの内功が
攻を奏するのである。
「愛らしいではないかウンス殿
名をなんと申すのだ?」
「え?ソマンと言うのよ
キ・チョルさんも子がいれば
良かったわね~」
「子か・・・」
「まこと賢そうな子であるな
これソマンとやら余が
抱いてしんぜようちこうよれ」
ソマンがいやいやと首を左右に
振りウンスの背に隠れる
そしてその前には当然の如く
ヨンが立ちはだかる。
この世では鬼剣は存在しないが
内功は健在のヨン
ぎろりと睨みを利かし口を開く。
「徳興君殿・・我が妻は勿論の事
せがれソマンにも指一本触れさせぬ
故、余計なお世話はご遠慮申し上げる」
「相変わらずかたい奴よ
あの折まこと婚儀を挙げておれば
今頃ウンス殿の隣は余であったかも
知れぬ・・・」
「あり得ぬ!」「めっ!」
愛しい二人が即座に徳興君の言葉を
否定する。
幼いソマンでも理解できたのであろう
いや・・・この二人の腹のうちを
読んだのかも知れない・・・。
「ヨンァ、その辺でよいであろう
こうして皆が揃ったのじゃ
宴にせぬか?・・・ソマン…
このじじの膝の上ではどうじゃ?」
「じじ~~」
「お父様・・・すみません
甘えん坊で…ソマンもご迷惑でしょう
さぁ自分で椅子に
腰掛けてちょうだい?」
「じじのひざがいぃ~」
「おお~そうか!嬉しいものじゃ」
ヨンの父元直がソマンを
ひょいと抱き上げると己の膝の上へ
ちょこんと座らせる。
そしてその対面には二人がいる。
キ・チョルの横にはチュンソク
徳興君の横にはトクマンが腰掛け
その間に家畜の用意を終えたテマンが
陣取る。
ひそひそ話をさせぬよう
がっちり固めているのである。
王様、王妃様を上座に案ないすると
おなごらが贅を尽くした膳を運ぶ。
こちらの世でも基本質素な暮らしを
心がけてきていた。
ウンスの世でも広く知れ渡る
「黄金を石ころと思う人となれ」
チェ家家系に伝わる言葉を遺言とし
旅立った元直だけのことはあったが
こうしてソマンと言う初孫に
出逢えた嬉しさからか
今宵は特別のようであった。
「わぁ~~」
ソマンが歓喜の声をあげる。
鳥肉や牛肉・・・自家栽培の野菜や
根菜類がところ狭しと卓の上に
置かれ宴の始まりである。
サムやアル、テマンの嫁ヘジンを
筆頭におなごらは別卓を囲み
腰を降ろす。
熱々に焼かれた肉から
ソマンは目が離せないようで
じっと凝視していた。
「じじぃ~~」
ソマンは甘えるように祖父を見上げる
「母さん、ソマンが食べたいようじゃ
ほぐしてやってくれ」
「はいはい・・・ふふっ」
基本味はついてはいないのだが
それでもこんがりきつね色焼けた
肉を丁寧にほぐしソマンの口へと
せっせと運ぶ。
「おいちぃ~」
「そう・・・良かったわね~ソマン
お祖母様に食べさせてもらえて
すみません…重くはないですか?」
「ウンスャ軽いものじゃ
気にするでない・・・王様、王妃様
お熱いうちに召し上がって下され」
「そうじゃな・・・王妃?
頂くとしよう」
「はい…」
対面に腰掛けるソマンを愛らしい
姿に目を緩めながらお二人は
箸をつける。
そんな様子を苦虫を潰した顔を
させ徳興君とキ・チョルは
見つめていたのであった。
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