戦が終わり高麗軍が勝利をおさめたと
ウンスが耳にしたのはその日の
夕刻であった。
「ほんとうに?チョモさん?みんな怪我
はない?」
「侍医殿・・此度の倭寇は海賊集団に
すぎません心配には及びません
総勢二千ほどの兵が動くのです
七日ほど過ぎれば戻られる筈です」
「ありがとうチョモさん
わざわざ知らせてくれて」
ウンスは心底安心したように
椅子にどさりと腰をおろし
「ふぅ~」っと深い息を吐く。
チョモが去り王妃様が典医寺へ
チェ尚宮やぞろぞろと女官を従え
お顔をお見せになる。
「姉上様…お聴きになられましたか?」
「はい、王妃様チョモさんが知らせて
くれました…直に戻ってくるって」
「ようございました・・・
きっと王様が護軍に・・・うふふ
妾としたことが、これはまだ内密で
ございました」
「えっ?内密なんて教えて
くださいよ、王妃様ぁ~」
「これ、侍医殿お止めなされ
王妃様のお手にむやみに触れるなど
回診以外は避けるのが道理故」
「あ、はい…すみません・・・」
「これチェ尚宮よいではないか
妾と姉上様は姉妹ゆえ、姉妹が手を
取り合い喜びを分かち合うのは
世の常、そう目くじらを
たてるでない」
ウンスが内密事を教えて欲しいと
王妃様のお手をぶらぶらさせて
いたのだが、叔母に嗜められぺろりっと
愛らしい舌を出す。
「まぁ~姉上様、なんと愛らしい
これだから護軍は婚儀が待ち遠しくて
ならぬのでしゅう…ふぅっ」
「王妃様の方が愛らしいですよ
私なんか歳も歳ですから」
「して姉上様?おなごの医員見習いは
この四姉妹なのですか?」
「はい、この度はお許し頂きありがとう
ございました。紹介しますね
長女のナナミ、次女のイルム三女オル
末っ子ソウです。みんながんばり
屋さんで将来がほんとに
楽しみなんです…男の医員に
胸を開くのを躊躇い命を落とす人も
いるって聴いてますから
この子らが近い将来立派な医員に
なりそんな患者が
少しでも減ってくれたらと思って
いるんです」
四姉妹が揃って頭を垂れ
長女ナナミが口を開く。
「お、お、お・・・・」
「うふふ、緊張してるのね
ほら大丈夫よ、深呼吸して」
「は、は、はい・・・すぅ~~」
ナナミは両手を高くあげ
深呼吸を繰り返し
その仕草がおもしろく
端で姉妹三人はクスクス笑っていた。
「・・・王妃様この度は
私らが王宮に通うことをお許し
くださりありがとうございました
ご期待に応えるよう日々精進致します」
「ふふ…姉上様は厳しいであろう?
なれどそなたらの先々の為じゃ
励むのじゃぞ」
「「「「はい!」」」」
四姉妹は元気よく返事を返すと
ナナミは血のついた布を洗濯に
イルムは几帳面なのか
卓の上に散らかった書物の整頓に
オルは床拭きに精をだし
ソウは「きゃっきゃっ」っと
庭を掃いている。
「まだまだ先は長いですけど
四、五年先には試験を受けさせて
みようと思っているんです」
「楽しみじゃのぅ~」
「はい、王妃様…」
そんな姉妹の様子を眺め
王妃とウンスは微笑む。
王妃様も坤成殿ふとお戻りになり
ウンスは見送りがてら
武閣氏を連れ四阿に寄り道する。
「サンミさん?聴いたでしょう
あの人戻って来るって?」
「はい、ウンス先生・・・」
「うふふ…ウンス先生って呼んで
くれたのね~嬉しいわ
でも挙動不審よ・・・」
サンミ、トイ、メイの武閣氏三人は
誰かに聴かれやしまいかと
夕暮れ間近の四阿で端をきょろきょろ
見回し、呟いていたのだ。
「ですがウンス先生誰かに
聴かれましたら処罰の対象ですから
警戒しませんと・・」
「トイさん?メイさんもありがとう
気を使ってくれてすごい嬉しいわ
婚儀の時は参列できるのかしら
参列できなかったら邸で
パーティーを開く考えでいるから
是非訪ねてきてね…うふふ」
「ほんとうに?邸に伺っても?」
「もちろんじゃない…いつも護衛して
くれているんだもの当たり前よ」
ウンスの応えに三人は満面の笑みを
浮かべその時を楽しみ待っている
様子であった。
それからウンスは典医寺を後にし
邸へと馬車に揺られもどるのである
ヨンの帰還が嬉しいのであろう
護衛のスリバンを掴まえ
「聴いた?聴いた?」っと何度も
繰り返し、キチやチグ、チャミを
困らせていたのであった。
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