サザエさん―傘(36)

 

強い雨では、タクシーが横付けできない玄関から門までの距離が、例え短くても、大事な衣服は雨に濡れて困ります。

 

朝日文庫版34巻〔70頁〕・昭和42年

『カツオ君が、ロータイプ机で勉強していると、ワカメちゃんが、コウモリ傘を持って現れました。カツオ君はワカメちゃんに、「おかあさんたちタクシーでかえってくるんだよ」と教えてやっています。ワカメちゃんは、何かを考えている様子で、カツオ君の顔をジーつと見ています』

『かなりの強い雨が、斜めに降っています。ワカメちゃんは、コウモリ傘を手に持ち、子供用傘をさして、いそのの表札がある自宅の門の傍に立っています』

『強い雨の中、タクシーが走ってきて、門の前に止まりました。ワカメちゃんは、すぐに、近づき、コウモリ傘を突き出しています』

『お母さんとお父さんが、タクシーを降りてきました。先に降りた紋付の和服を着たお母さんは、すぐにワカメちゃんのところに駆け寄り、ワカメちゃんが開いて持っていたコウモリ傘を受け取り、「さすがおんなのこねきがきくわ!」と褒めています。モーニングを着たお父さんも、ニコニコ顔でお土産の風呂敷包みを手に、お母さんと一緒にコウモリ傘の中に入りました』

 

カツオ君に比べ、ワカメちゃんの方が利口で思いやりがあります。

カツオ君!今日、お父さんとお母さんは、結婚式に出席するので、それぞれ、モーニングと紋付の和服を着て出て行ったじゃないか!!

お母さんたちには、大事な和服と洋服だ、雨に濡れたら後が大変だ。

 

磯野家は、門から玄関までかなりの距離があるとおもっているのだろう。

しかし、タクシーが門の中まで入ってきて、玄関に横付けできるほどのお屋敷ではないことぐらいカツオ君は良くわかっている筈だ。

この強い雨では、例え、タクシーで走る距離ではなくても、シッカリと濡れてしまう距離なんだよ。

 

ワカメちゃんは、偉い、そこのところが、良く分かっているので、タクシーで帰ってくるお母さんたちを、タクシーが横付けできる磯野家の門の前まで、コウモリ傘を持ってお出迎えしたんだ。カツオ君は、そんなことも理解できない気の利かない息子だったんだね。お母さん、がっかりしているぞ!