サザエさん―面白い落ち(153)
サザエさんのお父さんの頭の天辺で大事にされて残っている一本の髪の毛は、意外なところで役に立つたのでした。
朝日文庫版43巻〔307頁〕・昭和47年
『新幹線の車内のようです。いや、そうではないですね。食堂車のドアを押して、新婚旅行らしい若い男女が出てきました。男は、スーツを着て、つま楊枝を咥えています。女は、つば広帽子を被り、ミニスカートのスーツを着た、目の大きい美人です』
『自分達の席のある車内に戻ってきました。席は、全席が前方を向いています。前部空席で、後の方から車内に入った二人は、きょろきょろして、「ぼくたちのせきは?」と探しています』
『その車内の前方のドアからサザエさんのお父さんが、ハンカチで手を拭きながら現れました』
『サザエさんのお父さんが席に着きました。すると、自分の席を探していた男性が「お―あそこあそこだ」と女に指で示しています。そこには、ツルツルの頭の天辺に一本の髪の毛が真直ぐに立っている頭がありました。お父さんの頭の横に〈人は人知れずなにかの役にたっている〉と添え書きがしてあります』
サザエさんのお父さんの独特の頭、あの頭の下の方には、その回りにグルリと髪の毛は残っています、しかし、上の方に登っていくと、全くツルツルです。
しかし、ツルツル頭の天辺には一本だけ元気な髪の毛が残っています。
その毛は、真直ぐに立っています。
この頭の毛は見たら、直ぐには忘れないでしょう。
若い男女が食堂車から出てきます。
ドアを押して開けています。
新幹線のドアは、確か自動開閉ではなかったでしょうか?
もしそうであれば、押し開くのではなく、スライドして開く筈です。
ドアを押していますから、乗っていたのは新幹線ではないようです。
2人が、自分の客車に戻ると、後から見る座席は空っぽで、乗客がいません。
だから、自分たちの席が何処だったか判りません。
全く空っぽの座席、何だかミステリですね。
どうしたのでしょう。
そんな異様な雰囲気の列車に、サザエさんのお父さんが、手をハンカチで拭きながら現れました。
異様な光景です。
いや、お父さんは、トイレから出てきたのでしょう。
若い2人から見た、そのオジサンの目印は、禿げた頭の天辺にある一本の多少ウエーブのある、真直ぐに伸びた髪の毛です。
頭の下の方には、グルリと髪の毛が残っていますが、上の方はツルツルです。
しかし、ツルツル頭の天辺には、一本の髪が確りと残っているのです。
そんな頭は、サザエさんのお父さん独特の頭です。
お父さんは、この一本な髪の毛を大事にしているのです。
ある時は、お父さんは、ワカメちゃんが、お父さんの靴を磨いている靴ブラシを使い、鏡を覗き込みながら、残った一本の髪の毛の手入れをしていました。
このように大事にしているためか、永い年月、抜けずに残っています。
こんなに大事にしている髪の毛が、他人様のお役に立ったのです。
そうですね、この独特の頭の天辺の一本の髪の毛は、他人様が一度見たら忘れられないのものかもしれません。
だから、他人様のお役に立ったのです。
このツルツル頭の天辺の一本の毛が、席を探していた2人に、貴方達の席はここですと言わんばかりに、指し示していたのでしょう。
サザエさんのお父さんの頭の天辺で大事にされて残っている一本の髪の毛は、意外なところで役に立つたのです。