サザエさんの選挙(3)
当選御礼のご挨拶は、車を選びません。感謝の気持ちをお伝え出来れば、それに勝る幸せはございません。
朝日文庫版2巻〔46頁〕・昭和22年
『戦後間もなくの選挙事務所です。開き戸を取って解放し、天幕で囲んだ事務所で、椅子に座った候補者が、応援者と手を取り合いながら、喜んでいます。天幕の開き口には、衆議院議員 間●當』所と書いた立て看板が置いてあり、●の字は、当選者が「とうせんした!」と声を張り上げながら、振り上げた手の影になって見えません。事務所の中には、応援者と運動員のアルバイトの大学生と女子運動員としてアルバイトのサザエさんがいます、さ』
『当選した候補者と、応援者の人が抱き合って喜んでいます。アルバイトの大学生がサザエさんに「おれいまわりのくるまをすぐよういしてください」と頼んでいます。サザエさんは「オーケイ」と言いながら事務所を飛び出しました』
『街の中では、当選した別の候補者のお礼回りのトラックが、当選者と数人の運動員を荷台に乗せて、メガホンでお礼のどなり声を響かせて走り回っています。飛び出しサザエさんは、衆議院議員 間暮當と書いた立て看板の事務所に「ジドウシャがみんなではらってやっと一台あったわ!」と戻ってきました。アルバイトの大学生は「なんでもいいよ」と答えています』
『屋根のついた霊柩車の窓から当選した候補者、応援者、アルバイトの大学生、サザエさんが顔を出して、それぞれ大きな声で「みなさま」「ありがとうございます」などと街を走り回っています。通行人は、驚いて見ています』
戦後直後の選挙の風景です。
選挙事務所も、通常の商店の戸を開放して、その回りを天幕で囲んだような事務所のようです。
その事務所の、衆議院選挙に立候補した先生が当選しました。
立看板に書かれた候補者の名前が、当選して喜ぶ候補者の手の影になり見えませんでしたが、たしか、立て看板は、その後
「衆議院議員 間暮當」
であることが判りました。
フリガナもありました。
「衆議院議員 マグレアタリ」
さんだそうです。
楽しいユーモアです。
まさか当選するとは思っていなかった間暮當(マグレアタリ)さんは、その名前の通りの結果となってしまったようです。
当然、事前に、お礼の挨拶回りの車の準備もしていなかった。
戦後、間もなくのことでもあり、お礼回りの車など、余裕はなかったのでしょう。
間暮當事務所の人達は、「霊柩車」で当選御礼回りをせざるを得なかったようです。
当選したのですから、お礼回りの車の種類はなんでもいいです、
間暮當の私を当選させていただいた皆様に
「みなさま」「ありがとうございます」
と感謝の気持ちをお伝えできれば、それに勝る幸せはございません。