サザエさん―素直な落ち(20)

 

頭の天辺に、毛が一本のお父さんも、若いころは、真っ黒な髪の毛がフサフサと生えていた。

 

朝日文庫版31巻〔30頁〕・昭和40年

『お母さんが、押し入れの整理をしています。着物を入れた桐箱や、いろいろな箱を押し入れの中に潜り込んで、押し入れの中から取り出し、部屋の中に、積み重ねたり、拡げたりしています。ワカメちゃんは、物珍しそうに近寄ってきて、出された物を調べています。一つのアルバムの中に、髪の毛が、黒々と、ふさふさと生えている若者の写真が挟まっていました。ワカメちゃんは、その写真を手にすると、しみじみと見ながら、「これだれ」とお母さんに尋ねました』

『桐箱の蓋を取り、中の着物を整理していたお母さんは、ワカメちゃんの傍に近づき、ワカメちゃんが手にしている写真を覗き込んでいます。そして、「おまえのおとうさんですよ」と言いました。ワカメちゃんは、お母さんの、意外な返事にビックリしています』

『ワカメちゃんは、庭に飛び出しました。そして、一本の植木に手をかけ、大粒の涙を「ぽろぽろ」と落としながら、「じゃいまのおとうさん、二度めのパパだったのか」と悲しんでいます』

『庭で、泣いているワカメちゃんのところに、お母さんは降りてゆくと、ワカメちゃんはお母さんに体を寄せて泣き続けました。その時、廊下に出てきた、頭の天辺に髪の毛が一本しか残っていないほど、禿げ上がってしまったお父さんは、ハゲ頭から湯気を立ち昇らせてカンカンに怒っています。お父さんは、「しつれいな!わしゃそれほどかわっとらんぞ!」と怒鳴っています』

 

お父さん、

「しつれいな!わしゃそれほどかわっとらんぞ!」

はないでしょう。

ワカメちゃんが見た、若い頃のお父さんとは、まるで違っているじゃありませんか。

写真のお父さんは、髪の毛がフサフサ、今のお父さんは、頭の天辺に、毛が一本しかない、、まるで大きく違っています。

ワカメちゃんは、こんな今のお父さんは、本当のお父さんではない。

お母さんが、ハゲ頭の人と再婚したと思っています。

 

本当のお父さんではないと思ってしまったワカメちゃんは、悲しくなったのでしょう。

 

決して、お父さんが、髪の毛がふさふさではなく、ハゲているのを悲しんでいるのではありません。

頭の毛を比較して、今のお父さんは、本当のお父さんではないと思って、悲しかったのです。

 

お父さん、ワカメちゃんを悲しませるほど、若い頃のお父さんと今のお父さんの頭は

「大きく変わっています」

 

「年のせいで、髪の毛がすくなくなっただけだよ。その時の写真のお父さんと今のお父さんは、同じだよ」

と、よーく、説明して上げましょう。

 

カンカンに怒っているお父さんを見て笑っているお母さんが、何だか頼もしく、笑いました。

お母さんは、「あんなに髪の毛もふさふさの好男子だったお父さんが、こんなにも禿げあがるとは、あの頃、思ってはいません」でしたよネ!