サザエさん―素直な落ち(15)

 

火鉢でヤキイモ。

 

朝日文庫版13巻〔51頁〕・昭和30年

『サザエさんの家では、大きな火鉢を囲んですき焼きです。火鉢の中の炭火の上にゴトクを置き、その上に大きなすき焼きなべを置いています。お父さん、マスオさん、サザエさん、カツオ君、ワカメちゃんがいます。タラちゃんは、いません、まだ、生まれていない時のようです。お母さんもいません、どこかへお出かけのようです。みんな、お茶碗を持って、ハシでお鍋の中を突いています。サザエさんの横には、沢山の牛肉と、沢山の野菜と豆腐などがお盆に乗せておいてあります』

『お鍋が空になると、火鉢の回りで、みんな後ろ手で畳に手をつき上体を反らし、腹一杯になった満足しているようです』

『サザエさんを残して、皆、火鉢の傍からいなくなりました。一人残ったサザエさんは、空になったお鍋を、左手に持ち、後片付けをしながら、右手に持った一本の火箸で、炭火の下の灰を突いています』

『サザエさんが、持ちあげたお箸には、芋に突き刺さっています。ホカホカの焼き芋でした。サザエさんは、それを見て、「ちょうどやけてる」と嬉しそうです。そこに入ってきたマスオさんは、驚いています』

 

まだ、昭和30年頃の火鉢は、暖房用だけでなく、煮物にも使っていたようです。

サザエさんの家では、火鉢ですき焼きです。

家族で火鉢を囲み、温かく、楽しく、美味しいすき焼きを食べています。

皆、腹一杯食べることが出来たようです。

サザエさんも、勿論、沢山食べ、お腹が一杯です。

食べたすき焼きを、お腹の中に落ち着かせるために、上体を伸ばし、両手を後ろに伸ばして畳に着かせ、上体をグーッと反らしています。

こんな事をしてしまうほどたくさん食べました。

 

ところが、サザエさんは、まだ食べるものを用意していたのです。

サザエさんは、すき焼きを始める前に、こっそりと、火鉢の炭火の下の灰の中に大きな芋を一つ隠していたのです。

すき焼きが、終わるころ、芋はちょうど良いヤキイモとなっていました。

まだ食べるの!

美味し物は別バラと言いますが、サザエさんが大好きなヤキイモです。

すき焼きを腹一杯食べても、上体をグーッと伸ばして反らせば、ヤキイモが入るくらいの余裕は簡単にできるのでしょう。

 

しかし、傍から見ているマスオさんは、サザエさんが、よく食べ、ヤキイモ好きに呆れています。

 

昔の暖房器具である火鉢は、便利な物でした。

暖房器具、調理器具にもなり、その上、ヤキイモを作る焼き壷にもなります。

 

栗を入れたらどうなるでしょう。

パーンと弾いて灰が飛び散るでしょう。

そんなバカなことをやるようなサザエさんではありませんでした。

どこにも、火鉢で栗を焼いているサザエさんは、いませんでした。