サザエさん―面白い落ち(80)
マスオさん! 幼い子のくせに、大人に「い-だ、バカ!」「オタンコなす!かいしょなし!」と言ったその子は、確りと叱りつけてください。
朝日文庫版34巻〔64頁〕・昭和42年
『マスオさんが公園に来ています。ベンチで新聞を読んでいるオジサン、と3歳くらいの幼児が遊んでいます。マスオさんは、一休みしようと、そのベンチに片方の隅に座りました。座っている人は、チョビヒゲの太ったオジサンで強そうです。オジサンは、新聞を両手で拡げて一心不乱に読んでいます。3歳くらいの幼児は、マスオさんの傍に来て、マスオさんを見上げ、「い-だ、バカ!」と悪口を言いました。マスオさんは、チラと見ただけで、素知らぬ顔をしています』
『幼児は、続けて、新聞を読んでいるオジサンの膝の上に手を乗せて、マスオさんを見上げ、「オタンコなす!かいしょなし!」とヘラズグチを叩いています。マスオさんは、無視するわけにもいかず、「元気がいいなァ坊や!」と愛想笑いをしました』
『新聞を読んでいたオジサンは、新聞を畳み、小脇に挟むと、ベンチから立ち上がり、スタスタと歩いて行ってしまいました。坊やは、ベンチの傍にいます。マスオさんは、オジサンが立ち去るのを見ながら、坊やの頭を撫で撫でしています』
『マスオさんは、幼児の襟口を手で掴むと、グイと持ち上げ、その子の顔を睨みつけがら、「このコゾー!!もう一ぺん言ってみろ」とものすごく怖い顔をしています』
幼い坊やは、たどたどしくおしゃべりをして可愛いものです。
しかし、躾の悪い子は、憎まれ口を叩く子もいるのでしょう。
そんな子は、可愛くありません。
マスオさんは、公園を散歩し、休憩したベンチで、そんな可愛くない子に出くわしました。
その子が言った憎まれ口も
「い-だ、バカ!」
に始まり、
「オタンコなす!かいしょなし!」
と続きました。
可愛く見える子供であっても、ここまで言われると、叱りつけたくなるでしょう。
でも、その子の傍には、強そうなオジサンがいます。
体力に自信のない、可弱いマスオさんは、そのオジサンを見ると、坊やを
「何だと、この野郎」
と掴み、叱ることが出来なかったようです。
普通、幼児は、可愛いもので、こんな憎まれ口を言わなければ、
「坊や!可愛いね。抱っこしてあげようか」
と抱いたまま持ち帰るようなことが起こらないとも限りません。
マスオさんが、お父さんと見たオジサンは、強そうです。
持ち帰ろうと思っても、そんなことは出来ません。
その上、その子は
「い-だ、バカ!」
「オタンコなす!かいしょなし!」
などの憎まれ口を叩き、全く可愛くはないのです。
そんな子は、欲しくはありません。
そんな子を
[可愛いですね!]
と褒めても、強そうなオジサンは、何と言うでしょう。
親だったら
「すみません」
くらいは言うでしょう。
孫を連れたお爺さんの先を、やっと走れるようになった幼児が、走って来ます。
その後を、前向きに背を折ったお爺さんが追いかけるようについて行きます。
幼児が、ちょこちょこと走る姿に、思わず、
[可愛いですね!]
と声をかけると、お爺さんは、
「いいえ、可愛くありません」
と言いながら、坊やを追いかけて行きました。
そうなんです、走れるようになった幼児の早いこと早いこと、お爺さんにとっては、もうあまり可愛いのではないのです。
手を引いて散歩していた可愛い孫が、つないだ手を振り払い走っていくのですから、可愛いなど言ってはおられません。
手を握らないと危険なのです。
だから、さっきのお爺さんは
可愛いと見えた幼児でも
[可愛くありません]
と言ってしまったのでしょう。
マスオさんに、減らず口を叩いた子は、可愛くはありませんね。
腹が立ったでしょう!
親が傍にいないのなら、確りととっちめないと、その子のためになりません。
襟口を掴んで持ち上げたマスオさんは、少しやり過ぎに見えますが、
親は傍にいませんから、強く叱りつけて下さい!