サザエさん―面白い落ち(78)

 

長持ちするのは、クツシタよりご婦人たちだ?

 

朝日文庫版23巻〔167頁〕・昭和36年

『マスオさんが、デパートの紳士用品売り場にいます。ショウケースに向うに立っている店員に、クツシタを指に掴んでぶら下げたマスオさんが、「きみ買って1週間でアナが開いたぜ」文句を言っています』

『マスオさんは、クツシタをぶら下げ、長々と文句を言っています。彼の言い分は、「靴下は丈夫になったというじゃないか!と言うことです。ショウケースの向うに、店員さんと、文句を言い続けるマスオさんに困って飛んできた店員さんの上司とが、二人ともショウケースの上に両手をついて、「あいすみません」と謝っています』

『それでもマスオさんは、頭から湯気を噴出させて怒っています。彼の、まだ続いている言い分は、「70年はもつというのにどうしたんだい!!と言うことです。しかし、頭も禿げあがり、髭を生やした上司は、さすがに上司で、マスオさんに、「お言葉ちゅうですが、それはご婦人です」と言い返して来ました』

『これには、マスオさんも、「ア、そうか失言、とりけし」と素直に謝っています。後ろのネクタイ売り場で、ネクタイの品定めをしている年を召した二人のご婦人が、マスオさんを振り返って見ています』

 

先日、戦後の靴下は、破れなくなって長持ちをするという話をしました。

天然繊維に代わって合成繊維が、クツシタの繊維素材となった後、クツシタが長持ちすると言うのは常識となっていました。

しかし、戦後、クツシタ以上に長持ちするものが、現れていたのです。

それは、ご婦人達の寿命でした。

 

このデパートの店員さんは、クツシタが長持ちするようになったとはいえ、マスオさんに70年は持つと言ったのは大変オーバーです。そんなには持ちしないでしょう。

 

何だか変だと思ったら、どうやら、店員さんは、「クツシタが70年は持つと言ったのは、70年持つと話題の別のものをクツシタと思い違い」をしたようです。

だから、マスオさんが、クツシタを買った時、「70年は持ちますよ」と大変な間違いを言ってしまいました。

その頃、70年は持つと話題になっていたものがあったのです。

 

それは、クツシタの寿命ではなく、日本のご婦人たちの寿命でした。

 

「70年は、持ちますよ」と、現在の[ジャパネットタカタ]も言わないだろう「誇大広告」に惑わされ、マスオさんが買ってしまったクツシタは、たった1週間で穴が開いたのです。

頭にきたマスオさんは、恥かしげもなく、デパートに文句を言いに来たのです。

それはそうでしょう

[70年持つと言っていたのに、たったの1週間で穴があいた]

のですから。

店員さんは、70年と1週間では「謝るしかないでしょう」

 

しかし、店員さんの上司さんは、したたかな人です。

さすがに、有能であるために、職場の責任者になっている上司が、思い出したのは

「70年は持つと話題になっているものがある。それは、クツシタではなく、日本のご婦人達の寿命だ。」

ですから、マスオさんに直ぐ謝っています。

そして、

「部下が、[クツシタが70年は持ちます]と申しましたが、それは間違いでした、70年は持ちますと言いたいのは、クツシタではなく、ご婦人たちの寿命です。貴方の後ろをごらんなさい、其処の売り場にもそんなご婦人がお二人もいらっしゃいます」

マスオさんも、戦後、ご婦人の寿命が長くなったことは、新聞記事などで読んでいましたから、

「店員さんの上司さんが言っていることは正しい、70年は持つというのはクツシタではなく、ご婦人の寿命のことである」

と上司の主張を直ぐに認めたのです。

マスオさん!戦後のクツシタが長持ちすると言っても、70年も持つクツシタはないでしょう。