サザエさん―犬(30)
お年寄りは、暑い夏の日も、沢山食べねばなりません。お婆さんなにも遠慮することはないですよ。
朝日文庫版31巻〔12頁〕・昭和40年
『サザエさんが、冷麺でも作ったのでしょうか大きな丼に入れ、布きんを被せ、お盆に載せ、近所の家に持って行きました。その家の玄関の前庭にある犬小屋の前に、ご飯を入れた小さめの器を持って奥さんが立っていました。サザエさんは、奥さんに近づくと「おあついじゃありませんか!」と挨拶をしました。奥さんは、「まつたくですわね!」と答えました』
『犬小屋の外に、鎖に繋がれた犬が、長々と、ぐったりと寝そべっています。犬の鼻先には、食べ物が山盛りの容器と、お汁が一杯の容器が、口もつけられずに置いてあります。その様子を見て奥さんが「さすがに宅の老犬もなにもいただきませんの」と嘆いています。サザエさんも、ドンブリを持ったまま同情している様子です』
『縁側の廊下の少し奥の部屋に、もう大分お歳の、小さくしぼんだようなお婆さんが、自分の目の前に小さなお膳を置いてあり、その上に、オカズのお皿、湯呑を置いて、傍らにはお櫃を置いて、お茶碗には山盛りのご飯を盛って、お箸を盛んに動かして、一杯に開いた口の中に、ご飯を掻きこんでいます。お婆さんは、掻き込みながら、「どうせわたしや、三杯もおかわりしました。あいすみませんね」と嫌味を言っています。それを聞いた奥さんは。「お母さんそれどういうひにくですの」と怒っています』
『縁側でお婆さんと奥さんが、共に涙を流して泣き叫び、激しく言い争っています。サザエさんは、間に入ることも出来ず、「きょうは、よほどの不快指数らしい」と言いながら、持ってきたドンブリを、持ったまま退散しました』
今年もすでに秋、過ぎ去った夏は、大変暑い日が続きました。
あれくらいの暑い夏だったら、エアコンが無ければ、食欲も減り、頭も可笑しくなります。
犬も、暑さには参ってしまいます。
折角の食事も、食べる気にはならないようです。
これでは、サザエさんが折角持ってきたご馳走も食べないでしょう。
この暑さをものともせず、モリモリ食べている人間がいました。
お婆ちゃんです。どうも、その家の旦那さんのお母さんのようです。
お母さんは、お年寄りです。
食べた物から十分な栄養も採ることが出来なくなっています。
食べても栄養の吸収量は、低下しているのです。
暑さのせいではなく、歳のせいです。
ですから、お婆さんは、暑くても食べているのです。
食べない犬を皮肉って、奥さんの前で沢山食べているのではありません。
お婆さんに悪いから、
そこの犬、暑さにも負けず食べようよ!
奥さん、お婆さんをいじるのはやめ、好きなだけ食べさせてやりましょう。