サザエさん-車(23)
浪花節フアンの白バイの警官。
朝日文庫版26巻〔102頁〕・昭和38年
『幌を被せたトラックが走っていきます。雨上がりの泥水だまりで泥水を飛ばしながら走っています。傘をさして歩道を歩いていたサザエさんは、危うく被りそうになった泥水を避けました。作業帽を被った無精ひげの運転手は、トラックを運転しながら浪花節を唸っています。横には、若い男が乗っています。サザエさんの横を走っている時、「えんしゅ~もりのォいしまつのォォ~~」と浪花節を唸りながら通り過ぎました』
『サザエさんの前を通り過ぎると、ヘルメットを被った警官が運転する白バイが、泥水を飛ばしながら、トラックを追っかけてきました。警官は、大きな声で止まれ止まれと叫び続けているようです』
『トラックは、止まりました。白バイをトラックに横付けするように止めた警官は、「ちがう、そこは えんしゅ森のエエエエエエ~~~~いしィまつゥ~~~とやるんだ」と、自ら胸を反らし、両手を拡げて、一節を唸り、浪花節の節回しを教えています。運転手は、キョトンとして警官を見ています』
『警官は、運転手に浪花節の指導をすると、引き返して行きました。運転手さんは助手席の若い男に「浪花節フアンの白バイだぜ」と言っています』
昔は、ラジオから浪花節がよく流されていて、フアンだった母親が楽しく聞いている傍で聞かされていたものです。
自身も浪曲の節回しが好きで、心地よく一緒になって聞いていました。
だから、広沢虎造の「石松三十石船」なども聞いたことがあります。
ラジオと一緒に「えんしゅ森の石松~~」と唸っていました。
しかし、一緒に唸っていただけで、「そこは違う」などと指導してはもらえませんでした。
この白バイの警官は、浪花節が相当、好きなようです。そして、上手なのでしょう。
トラックの開いた窓から聞こえてくる浪花節が、何だか変だ、
「カセットテープの浪花節にしては調子が狂ってる。少しスピードを出して、あのトラックについて走り、聞いてみよう」
バリバリーと少しスピードを上げて、トラックの横に着く。
「やっぱり、調子が狂ってる。そこは、そうではないぞ!もう少し、伸ばして、もう少し調子を高く、そこは低音で、長く伸ばす~、ダメだ。これは、止めて教えてやらなければ、この調子の狂った浪花節の騒音を出しては迷惑だ。聞いていて良い気分になるように、唸るように指導してやらんと、ハタ迷惑だ!おい!止まれ、止まれ」
トラックを止めると、俺の美声を聞いてみろ!と一節唸る。
判ったか、浪花節は、今のオレが唸ったように唸るんだぞ!
わかったか?わかったら、上手に唸れ!そうすれば、運転しながら唸ってよろしい。
ほかの車に迷惑は掛けないし、交通障害になることはないだろう。
「オレが教えた通り唸れば、浪花節を唸りながら運転して宜しい」
と言って走り去りました。
変わった浪花節フアンの白バイの警官でした。
こんな白バイの警官が、いらっしゃるかもしれませんね!