サザエさん―押し売り(14)

 

変わった売り方をする押し売りでした。

 

朝日文庫版26巻〔92頁〕・昭和38年

『何時ものように押し売りが来ています。サザエさんが応対しています。押し売りの頭の上には、3匹のハエが飛びまわっています。押し売りは、トランクから殺虫剤のスプレー缶を取り出し、「すばらしい殺虫剤ですぜ おくさん」と言っています。サザエさんは、黙って聞いています』

 

『押し売りは、スプレー缶を上に向け殺虫剤を勢いよく噴霧しました。噴霧された殺虫剤が押し売りの上に雲のようにただよっています。その雲の中から3匹のハエが次々とパタパタパタと落ちてきました。サザエさんは、落ちてきたハエを、アラよく効くわねーという思いで見ています』

 

『サザエさんは、感心して、「うち三かんいただくわ!」と部屋の奥に財布を取りに行きました。押し売りは「ヘイどうもありがとう」と言い、サザエさんを目で追いながら、いなくなると、こっそりと、足元から虫籠を取り出しました』

 

『○○○○』

 

この押し売り、何をしたと思いますか?

この押し売りは、猛獣使いならぬ、昆虫使い、とくにハエ使いでした。

ハエを、自分の思うまま、飛ばしたり、落としたり出来るよう、ハエを育て、商売に使っているのです。

 

サザエさんの家に、来ると、虫籠から三匹のハエたちを放ち、自分の頭の上を飛びまわらせます。

スプレー缶の説明をしている間、頭の上を飛び回らせて、押し売りが、その3匹のハエたちに向かって、スプレー缶から噴霧すると、ハエたちは、それを合図に次々と落ちて行くのです。

 

彼ら、ハエたちの演技に、サザエさんは、完全に騙されまして。

わあーよく効くと思ったのか、その殺虫剤を三缶も買うことにしました。

 

サザエさんが、いなくなると、落下しているハエ達は、押し売りが取りだした虫籠の中に、ひらひらと飛びあがり入っていきました。

 

この様子は、『○○○○』からわかりました。

『押し売りは、虫籠を持ち上げ、ハエたちに「さあはいりな!」と命じました。すると三匹のハエたちは、落ちている場所から飛び立ち、かごの中に次々と入っていきました。押し売りは、「虫をここまで、仕込むなァたいていじゃなかったぜ」と得意そうに一人ごとを言っています』。

 

サザエさんも、ハエたちの演技に、すっかり騙されて、ハエたちが噴霧された殺虫剤の雲の中からパタパタパタと落ちるのを見て、「よく効く殺虫剤だわ」と思ったのでしょう。

 

サザエさん、騙されては、いけませんよ。

ハエたちは、演技をして、死んだ真似をしているのですから。

このハエたちが、死んだら、押し売りには、大変です。

死ぬような効果のある殺中剤だったら、この押し売りの商売は成り立ちません。

 

本当は、スプレー缶の中味は、ハエたちを殺すことは出来ないものです。恐らく、ただの水でしょう。

 

サザエさん!三缶も買いましたが、いくら噴霧しても、サザエさん家のハエたちは、落ちてきません。

多分、噴霧された霧の中を、涼しげに飛び回っているでしょう。